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モロッコ北部、タウナート地方の山あいの村
「火を使っていないのに」
二〇一二年の冬の終わり、モロッコ北部タウナート地方の山村で、家の中の物がひとりでに燃えはじめた。町の診療所で働く看護師サミラは、ひとり暮らしの母に呼ばれて村へ戻る。配線を調べ、火の始末を確かめ、見張りを立てても、火はどこからか出た。
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モロッコ北部、タウナート地方の山あいの村
二〇一二年の冬の終わり、モロッコ北部タウナート地方の山村で、家の中の物がひとりでに燃えはじめた。町の診療所で働く看護師サミラは、ひとり暮らしの母に呼ばれて村へ戻る。配線を調べ、火の始末を確かめ、見張りを立てても、火はどこからか出た。
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エクアドル・マナビ州エル・カルメン、プランテンの畑
都会に疲れて、エクアドル西部のプランテン畑に戻ってきたマテオ。父は今も毎夕、畑の奥に黒砂糖を置いている。あいつらがこの土地を守っているのだ、と。雨上がりの夜、兄と二人で畑の奥へ入ったマテオは、地面すれすれに揺れる光と、歌うような声に出会う。
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イエメン・マフラ州、台地の縦穴
イエメン東部、マフラの台地に開いた巨大な縦穴。名前を口にすることさえ忌まれてきた「ジンの牢獄」に、二〇二一年九月、隣国の探検家たちが初めて底まで降りる。地上でロープの合図を待つ土地の男の耳に、穴の底から低い唸りが上がってくる。
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中国・江西省南部(贛南)の山村
一九七〇年代初め、江西省南部の客家の山村。墟で売れ残った卵の籠を、尾根の山道の岩に置いて、ほんの一分そばを離れたあいだに、籠は消え、大人二人でも担ぎきれない柴の束が置かれていた。その道では、山歌を歌うと大木の上から笑い声が返ってくるという。
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アルゼンチン・サルタ州オラン県
二〇一九年三月、アルゼンチン北西部の製糖地帯。収穫のない季節の夜、サトウキビ畑の奥で機械の番をしていた若い夜番に、どこからか石が降り、帽子をかぶった大きな黒い影が現れた。百年以上語り継がれてきた伝説の、ある一夜。
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中国・上海市浦東新区陸家嘴、吉林省長白山麓
二〇一七年九月、上海・陸家嘴の空に浮かび、雷に打たれ続けた影。石庫門の亭子間に暮らした冷たい手の青年「王逸」と、長白山の麓の香堂をつなぐ、ある渡劫の伝説をたどる。
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中国・陝西省西安市、秦嶺北麓(終南山)
二〇一八年夏、違法別荘の取り壊しに揺れる秦嶺北麓の村。ネットには「日本の邪術集団が龍脈に七十二本の杭を打った」という噂があふれていた。農家楽に泊まった無口な老人は、毎朝羅盤を手に山へ入っていく。
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093

中国・チベット自治区ラサ市、ポタラ宮
ポタラ宮の地下基礎構造を測量する技師と老宮大工が、千二百年前に封じられた未踏の地壟へ迷い込む。竪穴の底で目覚めたのは、チベットの大地そのものとされる羅刹女——その額に打たれた鎮魔の杭を、自らの血で鎮めることでしか、山は静まらなかった。
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091

タイ・サラブリー県、ミットラパープ通り
民間救護ボランティアの青年が、事故現場から遺体袋に紛れ込んだ死者の遺品を持ち帰ってしまい、助手席に現れた怨霊に襲われる。彼が捧げたのは祓いの経文ではなく、遺品を家族へ必ず返すという誓いだった。
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090

エジプト・ナイルデルタ、シャルキーヤ県
水路コンクリート内張り事業の現場監督が、夜間灌漑の水路端で自分の名を呼ぶ女の声に遭遇する。返事をすれば魂を奪われるという禁忌を思い出した彼が頼ったのは、両耳に詰め込んだナイルの黒泥だった。
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088

エジプト・カイロ、ウスト・エル・バラド
老朽建築の三次元測量に入った技師が、深夜、家具を引きずる音とビー玉の音の後、この建物の真の住人と名乗る影に対峙する。彼が返したのは排除ではなく、許しを乞う古い挨拶の言葉だった。
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064

マレーシア・スランゴール州ゴンバクからパハン州へ続く旧連邦68号線一帯
通信技術者のチェン(アキット)は、深夜に発生した山中の中継局障害を復旧させるため、古参整備士ロスリとともに街灯のない旧68号線へと分け入る。フランジパニの甘い香りに続いて腐敗臭が車内を満たした直後、屋根の上に何者かが飛び降り、鋭い爪で鉄板を引き裂き始める。孤立した中継局に逃げ込んだ二人を待っていたのは、カポックの巨木から逆さ吊りで降りてくる、ポンティアナックであった。
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052

ロシア・コミ共和国、ペチョラ川上流域
森林技術大学の学生イリヤは、冬季監視員として老犬ブーランとともにペチョラ川上流の孤立した冬営小屋に赴任する。猛吹雪の夜、敷地の蒸気風呂に灯る青白い光、死んだ妹の声で戸を叩く何か、そして解体されたブーランの亡骸——それは、冬の眠りに入る前に生贄を求めて山を下りてくる「森の主」であった。
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045

中国・広西チワン族自治区、陽朔・漓江流域
陽朔の川原で泥人形を捏ねる老人は、かつて職業的な蛇捕り「蛇花子」であった。四十歳の満月の夜、彼は二つの紅提灯——数百年を生きた大蛇の双眸を追い、漓江の支流の奥地で、下半身が石と化し、満月の夜だけ血の葉を滴らせる巨大な桑の木「血桑」に出くわす。そしてその梢では、大蛇と巨鷹の千古の死闘が始まろうとしていた。
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044

中国・黒竜江省、陝西省終南山
出馬仙の家系に生まれながら迷信を憎み、実家を飛び出した陸偉。祖父の初七日に水鉢の箸を掴んだ瞬間、彼の理性は根底から覆される。恋人の憑依、伯母が説く「人間へ転生する権利」を巡る教理を経て、彼は終南山に隠棲し、一頭の黒猫とともに前世の因果と向き合うことになる。
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043

中国・河南省焦作市沁陽市、太行山脈南麓
北京からラサを目指す自転車旅の途中、私たちは太行山麓の無人村で門楣に刻まれた無数の傷跡を見た。友人の老厳だけが血相を変えて引き返せと叫んだその夜、村の伝承——三十七代の狐の眷属を焼き殺した悪漢と、封じられた村の呪い——を聞かされる。翌日、狐仙洞の奥で老厳が手にした一本の沈香の彫刻が、十数年後の彼の運命を決定づけることになる。
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040

中国・北京市潘家園、陝西省北部(楡林)
雪夜の北京・潘家園。骨董商の小胖は語り手に、水に触れて色を変える「龍鱗」と、表面張力を超えて水を盛り上げる「龍骨」を見せる。それは一九二八年から続いた陝西大旱魃の最中、雷に撃ち落とされた赤龍の肉を貪り食った村人たちが、体内から燃え上がって焼死したという一族の記憶の欠片であった。
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038

中国・湖北省荊州(長江中流域)、インドネシア・アチェ州沖
深圳・南澳のイカ釣り船で嵐に足止めされた語り手は、江蘇省洪沢湖出身という初老の男と乗り合わせる。八歳の夏、水怪に命を救われたという男は、私財を投じて水怪伝承を蒐集し、一九九八年の長江大洪水の現場でその正体に再会する。
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037

タイ北部・メコン河流域(黄金の三角地帯)
タイ・ラオス・ミャンマー国境が絡み合う黄金の三角地帯の奥地。旧チュラロンコン大学生という川漁師の青年キティサックは、中元節の夜、語り手を舟に乗せてメコンの淵へと案内する。魚の雨、鰐の群れ、そして彼が「妻」と呼ぶ存在の正体が、増水の底から姿を現す。
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