135

マダガスカル北西部、港町マハジャンガの中学校
伝わるもの
二〇二六年四月、マダガスカルの港町マハジャンガ。中学校の朝礼で、十四歳の少女ファラが叫んで倒れ、それを合図にしたように、少女たちが次々に泣き崩れていく。人々はそれを「アンバラヴェロナ」と呼んだ。フランス語教師ミレイユは、祖母の記憶と、看護師の姉の言葉のあいだで、少女たちのそばに立つ。
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135

マダガスカル北西部、港町マハジャンガの中学校
二〇二六年四月、マダガスカルの港町マハジャンガ。中学校の朝礼で、十四歳の少女ファラが叫んで倒れ、それを合図にしたように、少女たちが次々に泣き崩れていく。人々はそれを「アンバラヴェロナ」と呼んだ。フランス語教師ミレイユは、祖母の記憶と、看護師の姉の言葉のあいだで、少女たちのそばに立つ。
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131

エクアドル・マナビ州エル・カルメン、プランテンの畑
都会に疲れて、エクアドル西部のプランテン畑に戻ってきたマテオ。父は今も毎夕、畑の奥に黒砂糖を置いている。あいつらがこの土地を守っているのだ、と。雨上がりの夜、兄と二人で畑の奥へ入ったマテオは、地面すれすれに揺れる光と、歌うような声に出会う。
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129

プエルトリコ・ウトゥアド、中央山地のコーヒー農園
二〇一七年九月、ハリケーン・マリアが去ったあと、山の町ウトゥアドに一人で暮らす叔母とようやく電話がつながる。叔母は言った。知らされていたから、少しだけ用意ができていたの。その夏、山の儀式の夜に、祖先の声が告げたのだという。
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128

イエメン・マフラ州、台地の縦穴
イエメン東部、マフラの台地に開いた巨大な縦穴。名前を口にすることさえ忌まれてきた「ジンの牢獄」に、二〇二一年九月、隣国の探検家たちが初めて底まで降りる。地上でロープの合図を待つ土地の男の耳に、穴の底から低い唸りが上がってくる。
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126

中国・貴州省東南部、錦屏の古い屋敷
一九九〇年代初め、貴州省の杉の町・錦屏。木材商人の祖先が建てた古い屋敷で、長い熱から回復しかけた十歳の娘を中庭の石の腰掛けに残し、母は市場へ出かけた。その留守に、屋敷の棟が崩れ落ちる。娘は無事だった。お母さんが呼んだから、と娘は言った。
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125

ラオス・シエンクワーン県とヴィエンチャン
一九七〇年代の終わり、ジャール平原。不発の子爆弾が兄の手の中で弾け、少年ソムリットは一人残された。三十年後、通訳ガイドとして国道七号線を走る車のすぐ後ろで、取り残された爆弾が爆発する。その夜、宿の戸口に、黙って立つ人影があった。
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124

キューバ・ハバナ、コロン墓地
二〇一五年、ハバナ。妊娠高血圧で薬も手に入らないエレナは、母に連れられてコロン墓地へ向かう。百十年前にお産で亡くなった若い母、アメリアの墓には、今日も妊婦や母親たちが列をつくり、輪で石を三度叩いて彼女を起こし、背を向けずに去っていく。
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121

中国・江西省南部(贛南)の山村
一九七〇年代初め、江西省南部の客家の山村。墟で売れ残った卵の籠を、尾根の山道の岩に置いて、ほんの一分そばを離れたあいだに、籠は消え、大人二人でも担ぎきれない柴の束が置かれていた。その道では、山歌を歌うと大木の上から笑い声が返ってくるという。
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117

モンゴル北部の冬営地
一九三〇年代の終わり、僧院が次々と閉ざされていくモンゴルの冬。羊飼いの娘オユーンの隣のゲルが、風もないのに内側から波打ち、骨や鞍がひとりでに飛び出してくる。人々がチョトゴルの仕業だと怯えるなか、ゲルの奥では一人の老人が、平然と茶をすすっていた。
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116

ネパール東部、エベレスト南麓のクンブ谷
一九八六年秋、エベレスト南麓のクンブ谷。単独行から戻った登山者は、自分を連れ帰った「もう一人」がいたと言った。その数日後の真夜中、彼は三キロ先の山中で倒れた相棒の声を聞いたと、コックのテントに飛び込んでくる。
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115

マカオ・コロアネ島と台湾・新北市
旧正月のマカオ。父を亡くして一年、母と姉妹三人で訪れたコロアネ島の路地で、妹は名もない祠の暗がりへ吸い寄せられた。姉がその手首を引き戻した日から、家族の耳には、誰も口にしていない言葉が届きはじめる。
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114

イタリア南部、バジリカータ州の内陸丘陵
二〇一五年の冬、南イタリアの過疎の丘陵地帯。帰省した幼なじみを乗せて夜の未舗装路に入った瞬間、助手席の男は理由のない激しい拒絶に襲われた。半年後の夏、乾いた太陽の下で、その道の先がどうなっていたかが明かされる。
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113

ケニア西部、ヴィクトリア湖の北東の農村
二〇〇九年、ケニア西部の農村の寄宿制小学校。停電の夜ごと、トタン屋根に小石が降り、女の子たちは鉄の衣装箱を積んで扉を塞ぐ。昼の隣人が夜だけ別のものになるという「夜走り」の言い伝えと、よそから来た若い教師に向けられていく疑い。
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109

韓国・慶尚南道の港町
一九九五年、韓国南部の港町で、家族が自分たちで建てた二階建ての家。建てる前に「土地の気が強すぎる」と告げられていたその家で、幼い弟は夜ごと屋上の甕の前に立ち、家族はそれぞれ、誰にも言えないものに耐えていた。
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085

ルーマニア・ゴルジ県カルパチア山麓
山岳基地局の復旧に派遣された通信技師が、聖アンドレイの前夜、ニンニクの結界を破ってきたストリゴイと対峙する。翌朝、村人たちは墓を掘り起こし、途絶えることのない民間儀礼を執り行う。
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081

タイ・ナコーンシータンマラート県
職を失いバンコクから叔父の村へ流れ着いた青年が、深夜のゴム園で祖母の血筋に連なるノラーの祖霊たちと出会う。逃げることも祓うこともできない相手に、青年は最高位の合掌と、途絶えていた儀礼を執り行う約束を捧げる。
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076

英国イングランド、デヴォン州ダートムーア
ダートムーアの古い石造りコテージを借りたウェブデザイナーのオリヴァーは、煙突の奥から古い子供靴を引き抜いてしまう。それは、死者を運ぶ「リッチ・ウェイ」沿いの家々に代々仕込まれてきた、身代わりの魔除けだった。
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075

フィンランド・南サヴォ県カンガスニエミ、プーラ湖畔
祖父の遺産である湖畔の小屋を点検しに来たヤリは、誘惑に負けて夜遅くに古い煙サウナへ入る。座面に現れた三つの影は、水死した大叔父を含む死者たちが、自らの身体を清める「洗屍」の所作を繰り返す姿だった。
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072

タイ・ノンタブリー県、バンコク近郊の運河沿い
格安の部屋に転がり込んだエアコン清掃員キッティサックは、ベッドの下に貼り付けられた古い硬貨と、送風ファンに絡む長い黒髪に気づく。前の住人だった踊り子の霊が「寝床の買い取り」を求めて現れたとき、彼に残された道は場所の権利を認め、立ち去ることだけだった。
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069

ポルトガル・ミーニョ地方の山間部
深夜の迂回路で車が動かなくなった青年ジョアンは、路傍の祠に落ちていた古い硬貨を拾ってしまう。それは、果たされなかった巡礼の誓願のために遺された、死者の代価だった。彼を追ってくる無数の魂の行列から逃れる術は、代わりに約束を果たすことしかなかった。
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061

ベトナム・ホーチミン市ゴーヴァップ区
ホーチミン市ゴーヴァップ区へ移り住んだ少年は、週末の昼寝をするたび、黒い塊に押し潰される同じ夢を見るようになる。両親は新居の暑さや転校の疲れだと考えたが、ある夏の日、夢の中の塊は初めて少年の名を呼んだ。目を覚まして寝床を離れた直後、隣家の工事現場から崩れたコンクリートがトタン屋根を突き破り、少年が眠っていた場所へ落下する。彼を救ったのは予知夢だったのか、それとも、その家に残っていた誰かの記憶だったのか。
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051

インドネシア・中部ジャワ州、ムラピ山麓
学費に困った大学生バユは、火曜クリウォンの夜に急死した処女の墓を七日間見張る日雇いを引き受ける。屍衣の紐(タリ・ポチョン)を狙う墓泥棒と、地面から浮遊して迫るポチョンの怪異。その眼窩の奥にあったのは呪詛ではなく、頭頂部と首の結び目を解いてほしいと懇願する、亡き娘の哀切な声であった。
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007

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