序章 赤土の記憶
雨季が明けると、シエンクワーンの高原には、冷たく澄んだ風が吹き抜けた。
標高千メートルを超える平原はどこまでもゆるやかに起伏しながら連なり、冬の朝には、白い霧が古い石の壺の群れをすっぽりと包み込んだ。
誰が何のために据えたのかも分からない巨大な石の壺が散らばるその場所を、人々はジャール平原と呼んでいた。
ソムリットが十歳だった一九七〇年代の終わり、平原の土は乾くと赤い粉のように舞い上がり、雨が降れば粘土のように素足にまとわりついた。
美しい高原だったが、村の大人たちは子供たちに、畦道や踏み固められた小道から外れて、決して草むらに入ってはならないと、きつく言い聞かせていた。
大人たちの顔には、いつも、言葉にならない苛立ちと恐れが刻まれていた。
かつて空から降ってきたものは、戦争が終わっても、土の中に眠り続けていた。
この国で戦われた、表には出ない戦争のさなか、信じられないほどの量の爆弾がこの高原に落とされたという。
とりわけ恐ろしかったのは、大きな容器からばらまかれた小さな子爆弾、村の人々が「ボンビー」と呼ぶ、手のひらに収まるほどの鉄の球だった。
その三割ほどが爆発しないまま、草の根元や田の泥、畑の赤土のほんの数センチ下に、潜んでいた。
ソムリットには、三つ年上の兄がいた。
名をカムといった。
痩せて背が高く、いつも弟の歩幅に合わせて歩いてくれる、物静かな少年だった。
そのころの村はひどく貧しく、大人も子供も、野山で手に入るものは何でもお金に換えようとしていた。
いちばん手っ取り早くお金になるのは、散らばった爆弾の破片や、不発弾の厚い鉄の殻だった。
鉄くず買いのトラックが町からやってくると、集めた重さに応じて、いくらかのお金や塩と換えてくれたのだ。
子供たちにとって、それは危ない暮らしの糧であると同時に、避けようのない遊びでもあった。
雨で土が流れたあとの斜面を探し回り、鈍い緑色や錆びた灰色の球を見つけると、遠くから小石を投げて当てっこをした。
石が当たって鈍い金属の音が響くたび、胸が跳ね上がった。
大人に見つかれば激しく叱られたが、退屈と好奇心と、わずかな小遣いへの誘惑が、子供たちの足を草むらへ向けさせずにはいなかった。
あの日も、日差しが平原の枯れ草を白く照らしていた。
二人は水牛の放牧の合間に、トウモロコシ畑の端の乾いた溝にしゃがみ込んでいた。
カムが何かを見つけ、指をさした。
赤土の斜面から、半分だけ顔を出している小さな鉄の球があった。
表面には同じ間隔で筋が刻まれ、乾いた泥が薄い膜のようにこびりついていた。
ソムリットは、胸の奥が冷たくなるのを感じた。兄ちゃん、やめよう、とソムリットは言った。大人を呼んでこよう、と。
けれどもカムは首を振った。
兄はいつも慎重だったが、その日はなぜか違っていた。
前の週、隣の家の少年が、信管の抜けた鉄の殻を売って新しいノートと鉛筆を手に入れたのを、兄がうらやましそうに見ていたのを、ソムリットは知っていた。
カムは小枝で、球のまわりの土を少しずつ掻き出した。
土はもろく崩れ、手のひらに収まるほどの重さの球が、ころりと兄の手の中に転がり込んだ。
カムがそれを両手で包むように持ち上げた、次の瞬間だった。
火花も、轟音も、ソムリットの記憶の中では、奇妙なほど抜け落ちていた。
ただ、巨大な手のひらで胸を強く突き飛ばされたような衝撃があった。
熱い風が吹き抜け、赤い土煙が何も見えなくした。
耳の奥で甲高い音が鳴り続け、世界からすべての音が消えた。
ソムリットは尻餅をついたまま、煙の中で瞬きを繰り返した。土が雨のように降ってきた。
煙が薄れたとき、兄は溝の底に横たわっていた。
ソムリットは叫ぼうとしたが、喉から声が出なかった。
兄の手の中にあった小さな鉄の球は、もうどこにもなかった。
村の人々が駆けつけてきたとき、ソムリットは兄のそばに座り込み、兄の足首を、ただ握りしめていた。
母の引き裂かれるような声が遠くで聞こえたが、その声さえ、水の底から響いてくるようだった。
兄はその日のうちに布にくるまれ、寺の裏手で荼毘に付された。
積み上げた薪から立ちのぼる白い煙が、乾季の青い空へ吸い込まれて消えていくのを、ソムリットはずっと見上げていた。
兄は自分の身代わりになって死んだのだ、という暗い思いが、十歳のソムリットの胸の底に沈んだ。
あの日、あの場所に先に手を伸ばしたのが自分だったら、そこに横たわっていたのは自分だったはずだった。
その声にならない負い目は、そのあとの彼の暮らしのあらゆる節目に、消えない影のように寄り添い続けた。
第一章 砂埃の国道七号線
三十年という歳月は、傷ついた高原の景色を、少しずつ変えていった。
ポーンサワンの町にはコンクリートの家やホテルが建ち並び、大きな交差点には街灯がともるようになった。
爆弾の雨が降った大地は、国際的な不発弾処理の団体の地道な働きで、少しずつ安全を取り戻し、二〇〇〇年代に入ると、謎めいた石の壺に惹かれた外国の旅行者が訪れるようになっていた。
四十歳を過ぎたソムリットは、首都ヴィエンチャンを拠点に、外国の旅行者や研究者を案内する通訳ガイドとして働いていた。
子供のころに寺の僧侶から手ほどきを受け、のちに首都で身につけたフランス語と英語が、彼の暮らしを支えていた。
車の運転は専門の仲間に任せ、自分は助手席に座って、この国の歴史や土地の習わしを客に語るのが彼の役目だった。
土地に根ざした穏やかな語り口は、外国の客たちから深く信頼されていた。
その年の乾季、ソムリットは、スイスから来た写真家の男を案内していた。
ルカスという名のその男は、戦争の跡が残る風景と、そこに生きる人々の暮らしを撮るために、ラオスを訪れていた。
ポーンサワンで何日か撮影を終えた二人は、地元で雇った運転手のトゥイの四輪駆動車に乗り込み、国道七号線を東へ、ベトナム国境の方角へ向かっていた。
国道七号線は、山がちな土地を縫うように走る、細い舗装道路だった。
アスファルトのところどころに穴が開き、大型トラックが通るたびに激しい土埃が舞い上がった。
車の外には、丸みを帯びた緑の丘がどこまでも広がり、斜面には、爆撃の跡のすり鉢状の窪みが、乾いた草に覆われて無数に残っていた。
ルカスは後部座席で重いカメラを抱え、外の窪みを指さした。
「あれは全部、当時の穴なのか」
ソムリットは助手席から振り返り、静かに頷いた。
「ええ。三十年以上たっても、土地の形そのものが変えられたままです。窪みの底に水が溜まって、牛の水飲み場になっているところもあります。でも、草の生い茂ったところには、まだ決して足を踏み入れてはいけません」
運転席のバックミラーには、小さな金属のお守りが揺れていた。
ラオスの独立運動を率い、人々に深く敬われたペッサラート殿下の肖像を刻んだものだった。
殿下は生前、姿を消したり動物に変わったりできたと信じられていて、その肖像は、街道を行き交う運転手たちにとって、事故や災いから身を守る、何より心強いお守りとされていた。
トゥイは、急なカーブを曲がるたびに、知らず知らずそのお守りに触れる癖があった。
車は山あいのゆるやかな下り坂にさしかかっていた。
道の両脇には背の高いススキのような草が生い茂り、赤茶けた土の崖がむき出しになっていた。
対向車はなく、エンジンの唸りと、跳ねた小石が車の底を叩く乾いた音だけが響いていた。
突然、車の右後ろで、何かが弾けるような音がした。
銃声ともタイヤの破裂とも違う、低く湿った、地面の底を揺らすような衝撃だった。
車体がごつんと右に揺れ、トゥイがハンドルを強く握り直した。
ルカスが驚いて座席から腰を浮かせた。
トゥイはブレーキを踏みかけ、すぐに思い直してアクセルを踏み込み、五十メートルほど先の見通しのいい直線で車を止めた。
三人は黙ったまま車を降り、後ろを振り返った。
通り過ぎてきたばかりの道端、舗装が途切れて赤土がむき出しになった斜面の裾から、一筋の灰白色の煙が立ちのぼっていた。
土煙は風に流され、昼の強い日差しの中に溶けていくところだった。
その場所の土はわずかにえぐれ、まわりの草が放射状になぎ倒されていた。
「……何が起きたんだ」と、ルカスが震える声で尋ねた。
トゥイが青ざめた顔で煙の立つほうを見つめ、小声で言った。
「ボンビーだ。道端の土の中に残っていたやつが、爆発したんだ」
乾季の強い日差しのせいなのか、通り過ぎたトラックの振動のせいなのか、理由は誰にも分からなかった。
ただ確かなのは、彼らの車がその場所を通り過ぎてから、ほんの数秒しかたっていなかったということだった。
車の速さがもう少し遅かったら、手前のカーブでもう少しもたついていたら、飛び散った鋭い金属の破片は薄い車のドアを貫いて、中の誰かを傷つけていたかもしれなかった。
ソムリットは、煙の立ちのぼる場所から目を離せなかった。
鼻の奥に、三十年前に嗅いだ、あの火薬の匂いがよみがえっていた。
胸の奥が冷たくなり、足の指先から血の気が引いていく。
「運がよかった」と、ルカスが胸に手を当てて言った。「本当に、信じられないくらいの幸運だ」
ソムリットは答えなかった。
トゥイは震える手でバックミラーのお守りに触れ、深く祈っていた。
ソムリットの胸を満たしていたのは、偶然への安堵とは違う、もっと別の、重く静かなものだった。
第二章 戸口の沈黙
その夜、三人は、山あいの町ムアンカムの街道沿いにある、木造の簡素な宿に泊まった。
山の夜は早く、八時を過ぎると外を走る車の音も途絶え、宿のまわりは深い闇に沈んだ。
高原の冷気が板壁の隙間から忍び込み、部屋の電球は、電圧が不安定なのか、ときおり細かく瞬いていた。
夕食の席で、ルカスは昼間の出来事を興奮気味に話し、手帳に何かを書きつけていたが、ソムリットはほとんど口を開かず、青いパパイヤのサラダと蒸したもち米を少し口にしただけで、早々に自分の部屋へ引き上げた。
部屋には小さな木のベッドと、薄いマットレス、洗面用のバケツがあるだけだった。
廊下に通じる引き戸には簡素な掛け金がついていたが、ソムリットはそれを掛けず、少しだけ開けたままにしていた。
ベッドに横たわると、昼間の光景がまぶたの裏に焼きついて離れなかった。
赤土の斜面から立ちのぼる灰色の煙。
ほんの数秒の差。
三十年前、兄の手の中で弾けた鉄の球。
ソムリットは薄い毛布を引き上げ、目を閉じた。遠くで野犬が一声吠え、それきり静まり返った。
どれほどの時間がたったのか、分からなかった。
ふいに、胸の上に奇妙な重みを感じて、ソムリットは眠りの底から引き上げられた。
苦しさはなかった。
誰かが毛布の上から大きな手のひらをそっと胸の真ん中に置き、静かに体重を預けているような、冷たく、けれど確かな重みだった。
心臓の鼓動が、その重みの下で、とくとくと静かに打っていた。
目を開けた。
部屋の中は暗かったが、廊下の薄暗い常夜灯の明かりが、少し開いた引き戸の隙間から、細い帯になって差し込んでいた。
その光の帯の中に、影があった。
戸口のわずかな隙間に、誰かが立っていた。
人の形をしていた。
男だった。
痩せていて、肩の線が少し角ばっていた。
その影は、部屋に入ってくるでもなく、廊下へ引き返すでもなく、半分開いた戸の縁に寄り添うようにして、じっと止まっていた。
廊下の板は少しもきしまなかった。初めからそこに、闇の一部としていたかのように、その輪郭は揺らぎもせずに立っていた。
ソムリットの体は動かなかった。
怖くて固まっていたのではない。
叫ぶことも、起き上がることも、そのときの彼には、まったく要らないことに思えた。
胸の上の重みは消えず、その重みを通して、戸口に立つ者の目が、まっすぐに自分へ向けられているのが分かった。
顔は闇に溶けて見えなかった。
何かを語りかけてくるわけでも、手を伸ばして何かを指さすわけでもなかった。
禍々しさは、少しもなかった。
ただ、そこに立っていた。見守るように。確かめるように。
ほんの数秒のことだったのかもしれない。あるいは、もっと長いあいだだったのか。
やがて、戸口の輪郭がゆっくりと薄れはじめた。
墨が水に溶けていくように、その人影は廊下の薄明かりの帯の中に沈み、気配そのものが、ふっと夜の空気にほどけて消えた。
その瞬間、胸の上の重みが消えた。ソムリットの胸に、ひやりとした山の空気が深く流れ込んできた。
ソムリットはゆっくり身を起こし、ベッドの上に座った。手足は震えていなかった。心臓は、驚くほど穏やかに打っていた。
暗がりの中で、開いたままの戸口を見つめた。廊下には、誰もいなかった。
「……兄ちゃん」
声に出して呟いたとき、涙が頬を伝ってこぼれた。十歳のあの日から、一度も流すことのできなかった涙だった。
戸口に立っていたのは、兄だった——ソムリットには、そうとしか思えなかった。
三十年前の少年の姿ではなく、生きていれば自分と同じように年を重ねていただろう背格好で、兄はそこに立っていた。
恐ろしさは、どこにもなかった。深い安らぎが、全身を満たしていた。
あの道を走っている限り、自分には何も起きない。
どれほどの不発弾が土の下に眠っていようとも、兄が守ってくれる。
ソムリットはそう信じた。
毛布に顔を埋め、声を押し殺して、長いあいだ泣いた。
第三章 傾く天秤
年月はさらに流れ、時代はますます速く動いていった。
二〇一〇年代に入ると、首都ヴィエンチャンには、それまでにない開発の波が押し寄せていた。
外国からの大きな投資が流れ込み、古い低い建物の並んでいた街に、新しい高層のホテルや大きなショッピングモールが次々に姿を現した。
メコン川の岸は整えられ、埃っぽかった通りは舗装され、夜遅くまで明かりが輝くようになった。
四十代の半ばになったソムリットもまた、その流れの中にいた。
長年の通訳ガイドの仕事を通して、彼のまわりには、外国の実業家や開発の関係者との太い付き合いができていた。
言葉が達者で、土地の習わしや役所の手続きに通じ、何より誠実な人柄を見込まれて、土地の売買や建物の賃貸の仲立ちを頼まれることが増えていった。
はじめは小さな手数料を得る程度だったが、土地の値が跳ね上がるにつれて、動くお金の桁も跳ね上がった。
気がつけばソムリットは、首都でも名の知られた不動産の仲介業者になっていた。
古い借家を出て、町から少し離れた静かな住宅街に、塀で囲まれた広い庭のある二階建ての家を買った。
庭には手入れの行き届いた芝生が広がり、南国の花々が咲き乱れていた。
だが、お金と欲の渦巻く場所に、古くからの穏やかさが長くとどまることはなかった。
歯車が狂いはじめたのは、二〇一四年の雨季のことだった。
大きな商業用地の取り引きをめぐって、ソムリットは、古くからの仕事仲間だった男に裏切られた。
男は偽の権利証書を使って地主から金をだまし取り、その責任と契約上の名義を、すべてソムリットの会社に押しつけていた。
男はお金を持って国境を越え、残されたのは、大きな負債と、怒り狂った出資者たちだった。
事態は急に悪くなっていった。
警察が調べに乗り出し、ソムリットの銀行の口座は次々に止められた。
毎日のように家の前に見知らぬ男たちの車が止まり、荒い声で返済を迫られた。
弁護士に相談しても、契約書に署名がある以上、責任を逃れるのはとても難しい、という冷たい答えしか返ってこなかった。
築き上げてきた信用は、指のあいだからこぼれる砂のように消えていった。
ソムリットは夜も眠れなくなった。
ベッドに入ると激しい動悸が襲い、耳の奥で、三十年前のあの甲高い音が鳴った。
食欲はなくなり、ほんの数か月で頬はこけ、髪には白いものが目立つようになった。
医者にかかっても、心労による不眠だと言われ、睡眠薬を渡されるだけだった。
家の中の空気は重く淀んでいた。美しかった庭の芝生は伸び放題になり、夜になると、家じゅうが不吉な静けさに包まれた。
「この家には、何かがいる」
ある夜、やつれきったソムリットのそばで、妻が震えながら呟いた。
「夜中に、庭の大きなマンゴーの木が、風もないのにざわざわ揺れるの。あの土地を買ってから、おかしなことばかり起きている」
ラオスの人々にとって、目に見えない霊——ピー——は、恐ろしい化け物というより、土地や自然や暮らしのすぐ隣にいる、隣人のようなものだった。
家を建てる前には土地の霊に許しを請い、木を伐る前には、そこに宿る霊に祈るのが当たり前の習わしだった。
けれども、首都のめまぐるしい日々の中で、ソムリットはその古い礼儀を、すっかり忘れていた。
親戚の勧めもあって、ソムリットはわらにもすがる思いで、郊外に住む年老いた霊媒を家に招くことにした。
第四章 見えざる領主
やってきたのは、モー・ピーと呼ばれる、霊と語る小柄な老女だった。
白髪を後ろで束ね、色あせた藍染めの巻きスカートを身につけた彼女は、ソムリットの広い庭に足を踏み入れた瞬間、立ち止まって眉をひそめた。
濁りのない鋭い目が、手入れの滞った庭の奥、大きなマンゴーの木の根元を、じっと見つめていた。
居間の床に茣蓙が敷かれ、儀式の支度が整えられた。
銀の鉢には白米と、バナナの葉で折った小さな円錐が供えられ、蜜蝋の黄色い蝋燭と線香が焚かれた。
甘く重い香りの煙が、部屋の隅々までゆっくりと広がっていった。
親戚たちが壁際に座り込み、息を潜めて見守る中、老女は茣蓙の真ん中にあぐらをかいた。
老女は小さな鈴を指に挟み、単調なリズムで揺らしはじめた。
ちりん、ちりん、と澄んだ音が、閉めきった部屋に響いた。
やがて彼女の口から、低く抑えた、独特の節回しの歌が漏れはじめた。
ふだんの言葉ではなく、霊の世界へ呼びかける、古い言葉の連なりだった。
三分、五分とたつうちに、老女の体が小刻みに震えはじめた。
息が荒くなり、肩が上下に揺れる。鈴の音が激しくなり、突然、ぴたりと止まった。
老女の首が、がくりと後ろへ傾き、白目をむいた。
見守っていた親戚の一人が、小さく息をのんだ。
蝋燭の炎が、風もないのに大きく揺らめき、冷たい空気が、足元を這い回った。
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