134

モロッコ北部、タウナート地方の山あいの村
「火を使っていないのに」
二〇一二年の冬の終わり、モロッコ北部タウナート地方の山村で、家の中の物がひとりでに燃えはじめた。町の診療所で働く看護師サミラは、ひとり暮らしの母に呼ばれて村へ戻る。配線を調べ、火の始末を確かめ、見張りを立てても、火はどこからか出た。
読了 24分
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モロッコ北部、タウナート地方の山あいの村
二〇一二年の冬の終わり、モロッコ北部タウナート地方の山村で、家の中の物がひとりでに燃えはじめた。町の診療所で働く看護師サミラは、ひとり暮らしの母に呼ばれて村へ戻る。配線を調べ、火の始末を確かめ、見張りを立てても、火はどこからか出た。
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中国・貴州省東南部、錦屏の古い屋敷
一九九〇年代初め、貴州省の杉の町・錦屏。木材商人の祖先が建てた古い屋敷で、長い熱から回復しかけた十歳の娘を中庭の石の腰掛けに残し、母は市場へ出かけた。その留守に、屋敷の棟が崩れ落ちる。娘は無事だった。お母さんが呼んだから、と娘は言った。
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123

デンマーク・コペンハーゲン、ノアブロ地区の集合住宅
コペンハーゲンの古い集合住宅の五階で、夜通し字幕を訳すアストリッド。毎晩午前一時四十五分、誰もいない階段を、鍵束の音だけが上がってきて、彼女の扉の前で鍵を回す。かつてこの階段室には、毎晩互いの部屋を訪ね合っていた年老いた兄弟が住んでいた。
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111

ブラジル・サンパウロ州の内陸の町
二〇一五年、不況の影が落ちるサンパウロ州内陸の町。平屋の借家で、ある夜、母親が別人の声で話し始めた。ウンバンダの霊媒たちが部屋ごとに行った静かな清めと、裏庭の赤土の下から掘り出された包み。
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エジプト・上エジプト地方、ナイル西岸の村
二〇二〇年、上エジプトの農村。祖父の遺した泥煉瓦の家の床下に古代の宝が眠ると信じ、夜ごと穴を掘った男たち。埋め戻された土間の上に取り残された母と娘の、腕に増えていく覚えのない傷。
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109

韓国・慶尚南道の港町
一九九五年、韓国南部の港町で、家族が自分たちで建てた二階建ての家。建てる前に「土地の気が強すぎる」と告げられていたその家で、幼い弟は夜ごと屋上の甕の前に立ち、家族はそれぞれ、誰にも言えないものに耐えていた。
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108

オランダ・北ブラバント州メイエライ地方
一九八八年、北ブラバント州の村で、古い木靴工房を仕切った家を借りた若い女性。冬の夜ごと、寝台の脇に三人の男が黙って立っていた。三十年後、村の老人が口にした一言と、一九四四年秋の「地獄のハイウェイ」の記憶。
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104

フランス・オクシタニー地域圏ペルピニャン(旧市街フォワ通り)
フランス南部ペルピニャンの旧市街、祖母から受け継いだ古い邸宅。十四年ものあいだ夫婦の眠りを奪い続けた正体不明の金属音と、同じ通りに伝わる十七世紀の女性の斬首譚をめぐる物語。
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097

台湾・台中市西区美村路
格安の分租套房に引っ越した新卒デザイナーが、毎晩午前三時十五分に襲う冷気と炭の匂いに気づく。天井裏に隠されていたのは、練炭自殺の現場をそのまま覆い隠した黒焦げの梁と、消せなかった前住人の絶望だった。
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088

エジプト・カイロ、ウスト・エル・バラド
老朽建築の三次元測量に入った技師が、深夜、家具を引きずる音とビー玉の音の後、この建物の真の住人と名乗る影に対峙する。彼が返したのは排除ではなく、許しを乞う古い挨拶の言葉だった。
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077

スウェーデン・町名非特定
夜勤から戻った姉は、弟から玄関を調べてほしいと頼まれる。傷のない錠、閉まる扉、誰も見ていない庭。安全を確かめるほど、弟の話との間に小さなずれが生まれていく。
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076

英国イングランド、デヴォン州ダートムーア
ダートムーアの古い石造りコテージを借りたウェブデザイナーのオリヴァーは、煙突の奥から古い子供靴を引き抜いてしまう。それは、死者を運ぶ「リッチ・ウェイ」沿いの家々に代々仕込まれてきた、身代わりの魔除けだった。
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072

タイ・ノンタブリー県、バンコク近郊の運河沿い
格安の部屋に転がり込んだエアコン清掃員キッティサックは、ベッドの下に貼り付けられた古い硬貨と、送風ファンに絡む長い黒髪に気づく。前の住人だった踊り子の霊が「寝床の買い取り」を求めて現れたとき、彼に残された道は場所の権利を認め、立ち去ることだけだった。
読了 29分
068

アイスランド・町名非特定
友人一家の空き部屋で暮らし始めた男は、少しずつ家の仕事を覚えていく。けれど、夜に感じた恐怖を食卓へ持ち出したとき、自分と家族とでは、同じ家にいるものの意味が違うと気づく。
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061

ベトナム・ホーチミン市ゴーヴァップ区
ホーチミン市ゴーヴァップ区へ移り住んだ少年は、週末の昼寝をするたび、黒い塊に押し潰される同じ夢を見るようになる。両親は新居の暑さや転校の疲れだと考えたが、ある夏の日、夢の中の塊は初めて少年の名を呼んだ。目を覚まして寝床を離れた直後、隣家の工事現場から崩れたコンクリートがトタン屋根を突き破り、少年が眠っていた場所へ落下する。彼を救ったのは予知夢だったのか、それとも、その家に残っていた誰かの記憶だったのか。
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057

スペイン・カスティーリャ・イ・レオン州パレンシア県、ティエラ・デ・カンポスの寒村
公務員試験浪人のセルヒオは、猛勉強のため祖父が遺したパレンシアの寒村の古い屋敷に移り住み、伝統的な床下暖房「グロリア」を焚いて暮らし始める。だが火を入れた夜ごと、床タイルの裏側から人間の爪で引っ掻くような音と焼け焦げる臭いが這い上がってくる。隣人の老羊飼いが明かす内戦後の飢餓の時代の記憶とともに、セルヒオは猛吹雪の孤立した屋敷で、床下に眠り続ける小さな魂と対峙することになる。
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053

イギリス・イングランド北部ヨークシャー地方
リーズ大学院生オリヴァーが借りたヴィクトリア朝のテラスハウスには、塞がれた暖炉を内包する「チムニー・ブレスト」があった。夜な夜な響く子供の咳、爪で煉瓦を引っ掻く音、そして壁に浮かび上がる小さな手形。老いた煙突掃除職人のファイバースコープが煙道の奥で捉えたのは、百三十年前から取り残された少年の白骨であった。
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050

ポーランド・ウッチ市ピョートルコフスカ通り
織物産業で栄えたウッチの古いカミエニツァに間借りした学生カミルの部屋には、巨大なオーク材のタンスで塞がれた扉があった。真夜中に響く杖の音と爪で引っ掻く音、そして隣の階段室に存在しないはずのその部屋。バールでこじ開けた先には、一九四二年冬から時を止めた、あまりに重い沈黙が眠っていた。
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047

韓国・ソウル特別市冠岳区新林洞
考試村として知られるソウル・新林洞で、相場の半額という好条件のワンルームを見つけた大学生ジフン。だがその部屋には、クローゼットの天板と天井のあいだ、わずか三十センチの隙間に、首の折れた女がいた。掲示板に体験談を書き込んだ彼のもとへ、元住人を名乗る捨てアカウントから一通の警告が届く。
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032

アメリカ・ワシントン州ピアース郡
レーニア山麓の古い山荘で愛犬と暮らす青年は、天井から響く重い足音に気づく。点検口を押し上げた瞬間、板の向こうから伸びてきたのは、泥にまみれた十本の指だった。
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023

読了 29分