序章 母の頼み

母が帰ってきてほしいと言ったのは、二〇一二年の二月が終わるころだった。

私はタウナートの町にある診療所で、最後の患者の血圧を測っていた。

机の上で携帯電話が震え、表示された母の名前を見て、いつもの膝の痛みだろうと思った。

「今、患者さんがいるの。あとでかけ直す」

そう言うつもりだったのに、先に母が言った。

「今夜、帰ってこられる?」

声が小さかった。

母の家では電波が悪くなることがあり、そういうときは戸口に出て話す。

私は母が寒い外に立っている姿を思い浮かべた。

「膝?」

「膝はいいの」

「じゃあ、何?」

しばらく返事がなかった。電話の向こうで、誰かが金属の器を重ねる音がした。

「今夜は家にいたくない」

患者の腕から袖口を戻しながら、私は言った。

「誰か来た?」

「誰も来ないから、帰ってきてほしいの」

父が亡くなってから、母はあの家でひとりで暮らしていた。

私と弟は何度も町へ来るよう勧めたが、母はいつも同じ返事をした。

鶏がいる。

畑がある。

父の植えたオリーブがある。

それだけの理由で家を離れない母が、そこにいたくないと言っていた。

「何があったの」

母は答える前に、私の名前を呼んだ。

「サミラ。今日も燃えたのよ」

私は診療所の白い壁を見た。消毒薬の匂いがした。

「何が?」

「今日は、服」

第一章 外へ出されたもの

山に入ると、舗装された道の両側に、冬の雨で崩れた土が寄せられていた。

村に着くころには日が傾いていた。

斜面の麦畑はまだ短く、オリーブの葉の裏が風に白く光っていた。

昔から知っている景色だった。

けれど村の入口に、見覚えのない場所ができていた。

家財を置いた場所だった。

鉄の寝台。脚の折れた椅子。蓋を外された木箱。洗面器。積み重ねた敷物。物干しにかけるように広げられた衣服。

いくつかの家は戸を開けたままにしていた。

その前で、男たちが壁に背をつけて座っていた。

誰も声を張らず、子供も走り回っていなかった。

母は中庭にいた。

膝に毛布をかけ、小さな卓の上に茶の盆を置いていた。

私を見ると立ち上がろうとしたので、その肩を押さえた。

外套越しにも、母の体が冷えているのが分かった。

「中へ入ろう」

「お茶はここにあるわ」

「寒いでしょう」

「ここなら、見えるから」

何が見えるのか、私は聞かなかった。

隣家の戸口から、幼なじみのハナンが出てきた。腕に、まだ湿った子供の上着を抱えていた。

「お母さん、昼からここにいるの」

ハナンは私を抱き、すぐに離れた。髪から煙の匂いがした。

「あなたの家?」

「うちは一昨日。今日は向こう」

顎で示した先の家では、男が衣装箱の底を外していた。薄い板が地面に並べられ、内側に黒い跡があった。

私は母の荷物を家に運び込んだ。

土の床は掃かれていた。

食器も洗ってあった。

寝室の壁際には、父が使っていた木箱があり、その上に羊毛の毛布が二枚重ねてあった。

何も変わっていないように見えた。

だから私は、母が怖がりすぎているのだと思った。

中庭に戻ると、ハナンが上着を広げて見せた。脇の下に、小さな穴があいていた。その周囲は茶色く硬くなっていた。

「かまどの近くに置いたんじゃない?」

私がそう聞くと、ハナンは上着をたたんだ。

「最初に来た人も、そう言った」

責めるような言い方ではなかった。それがかえって、私を黙らせた。

その晩、村の何軒かを回った。

最初に燃えたのは、家の外に積んだ乾いた草だったという。次は敷物。その次は箱にしまった衣服。

話す人によって順番が違った。

二度の火事を一度にまとめている人もいれば、同じ火事を別々に話す人もいた。

私は持ってきた手帳に、家と日付と燃えた物を書こうとしたが、すぐにページの端へ矢印を引くことになった。

「炎を見たの?」

「見た」

「最初から?」

「煙が出て、それから」

「誰が最初に気づいた?」

その問いには、皆がすぐ答えた。

誰が気づいたかは覚えていた。誰が水を持ってきたか、誰が子供を抱えたか、誰が箱を外へ出したかも覚えていた。

火がどこから来たかだけ、答えがなかった。

ある家では、敷物が壁から剥がされていた。隅に焼けた痕があり、白く塗った壁にも煤が残っていた。

私はそこにしゃがみ、壁を見上げた。

電線は離れた位置にあった。

かまどは別の部屋だった。

しかし、それだけで何も否定できるわけではない。

火種を運ぶものはいくらでもある。

布は火がついたあと、しばらく煙だけを出すこともある。

そう説明すると、家の主人は頷いた。

「では、何を直せばいい?」

私は立ち上がった。

返事を待つその人の前で、手帳を閉じることができなかった。

第二章 家を調べる

翌朝、私は母の家の電気を切った。

母はパンをちぎりながら、その手元を見ていた。

配線は古かったが、見える範囲で焼けた跡はなかった。

もちろん、私は電気の専門家ではない。

壁の中まで分かるはずもなかった。

「町から来た人に調べてもらう。それまで使わないで」

「夜はどうするの」

「明かりは私が持ってきたものを使う」

持参した小さな電池式の灯りを卓に置いた。母は指でスイッチを押し、白い光を確かめた。

次に、炊事場を片づけた。

ガスのボンベと布類の距離を取り、かまどの周りに置かれていた薪を中庭へ移した。

灰は完全に冷えていたが、念のため鉄の器に移した。

母は何も言わずに手伝った。

長年使ってきた物の置き場所を娘に変えられるのは、気持ちのよいことではなかったと思う。

それでも母は、鍋を置く場所だけを一度尋ね、あとは私の言うとおりにした。

「これで安心?」

私が聞くと、母は器を棚に戻した。

「あなたは?」

私は答えず、寝室へ行った。

衣装箱の蓋を開け、毛布を一枚ずつ取り出した。

母の冬服、父の古い上着、弟が子供のころ使った小さな敷物。

虫除けに入れた乾燥した植物の袋。

箱の底には、折り畳んだ紙が一枚あった。

父の筆跡で、昔の買い物の勘定が書かれていた。

私は紙を母に渡し、箱の内側を確かめた。焦げたところも、濡れたところもない。底板の隙間から、土の床が細く見えた。

母は紙を見ていた。

「取っておく?」

「戻しておいて」

私は元の位置に戻した。

その午後、村の年配の宗教の先生が来た。

私たちはその人をフキーフと呼んでいた。

コーランを教え、祈りの言葉をよく知っている人だった。

子供のころ、私もその人の前で何度も同じ一節を読み直した。

「町で働いているそうだね」

「はい」

「お母さんは、あなたが来てからお茶を飲むようになった」

母が目を伏せた。

フキーフは家に入り、母が用意した敷物に座った。

コーランの章句を読み、母は静かに聞いた。

悪いものから身を守るための朗誦を、ルクヤという。

私は戸口で聞いていた。

その声には、昔と同じ、少し掠れる箇所があった。

子供だった私が読み間違えると、そこだけゆっくり繰り返してくれた。

その記憶が、私の肩を少し緩めた。

朗誦が終わってから、私は言った。

「明日、町から調べに来ます」

「それはよい」

「電気も、火の始末も」

「調べられることは調べればよい」

私は、もっと話が難しくなると思っていた。

村では、悪いジンが来たという話が広がっていた。

ジンは、私たちの信仰の中にいる、目に見えない存在だ。

母も私も、その言葉を子供のころから知っていた。

けれどフキーフは、家を見回しても、ここにいるとは言わなかった。

「火が出たら、まず人を外へ出すことだ」

そう言って立ち上がった。

そのあと近所の女性が、小皿に塩を持ってきた。

母は家の隅へ少しずつ撒いた。

私は塩を止めず、代わりに戸口の前の荷物を動かした。

外へ出るとき、母の膝が引っかからないように。

夜、母は久しぶりに寝台で横になった。

私は床に敷物を敷き、その横に寝た。灯りは消さなかった。母が眠ってからも、何度か起き上がって炊事場を見た。

火はなかった。

家の中をひと回りするたびに、私は自分が安心を確かめているのか、安心できない証拠を探しているのか、分からなくなった。

第三章 見張りの夜

町から来た憲兵は二人だった。

若いほうは、家ごとに住人の名前を聞いていた。年配のほうは、話の途中で遮らず、燃えた物を見せてほしいと言った。

消防の人たちも来た。壁の煤を見て、配線を確かめ、家の外に出された箱を裏返した。

ひとつの家では、燃えた衣服が袋に詰められていた。

住人は袋を開けるたび、同じ順番で服を取り出した。

大人の上着。

子供の服。

端が炭になった布。

「これを、またしまっていいですか」

消防の人は、少し考えてから答えた。

「乾かしてから。今は外に置きましょう」

その人の言い方を、私はありがたいと思った。

村人は答えを求めていた。

しかし、答えが出るまでの暮らしも必要だった。

何をどこに置くか。

どこで眠るか。

子供に何を食べさせるか。

調査の人たちは、その小さな質問には答えた。

夕方、村の長老の家で話し合いがあった。

夜は交代で見張ることになった。

各家の戸口に水を用意し、燃えやすい物を炊事場から離す。

子供をひとりにしない。

何かあれば大声で知らせる。

私は手帳を出した。

燃えた時刻だけでなく、その前に家で何をしていたかも書こうと思った。

料理、洗濯、暖房、誰がいたか。

あとで重なることが見つかるかもしれなかった。

「全部覚えていない」

男のひとりが言った。

「覚えていることだけでいいです」

「覚えていないところが、原因かもしれない」

それは私も思っていた。

けれど、そう言われると、答えられなかった人の顔が強張った。

火事の前の一時間を正しく話せないだけで、何かを隠しているように見られてしまう。

私は手帳を卓に置いた。

「思い出したら、あとで書けます」

その晩、私は母と隣家の中庭にいた。

女性たちが敷物を並べ、子供を真ん中に寝かせた。

誰かがパンを持ってきた。

誰かがスープを温めた。

家で眠るのを嫌がる人と、外では寒くて眠れない人が、何度も場所を変えた。

ハナンの息子は、母親の上着の袖を握っていた。

「眠ったら、燃える?」

「眠っていても、私がいる」

ハナンはそう答えた。

私には、もっとよい言い方が思いつかなかった。

夜半過ぎ、村の反対側で声が上がった。

私は立ち上がり、用意していた水の器を持った。母が私の袖を掴んだ。

「ここにいて」

その手を外せず、一瞬だけ動けなかった。

「すぐ戻る」

母は離した。

燃えたのは、家の中に掛けていた布だった。

到着したときには、すでに床に落とされ、水がかけられていた。

憲兵が濡れた布を持ち上げ、住人に場所を聞いていた。

私は家の中に入らず、外に出てきた子供の顔を見た。咳はなく、火傷もなかった。泣きながら、片方の靴がないと言った。

父親が靴を持ってきた。

私は子供の踵を押さえて履かせた。その間も、家の中では質問が続いていた。

見張りをしていた男が、戸口のそばに座っていたと説明していた。

「誰か入った?」

「誰も」

「炊事は?」

「夕方に終わった」

「その布は、いつ掛けた?」

男は奥さんを見た。奥さんは、ずっとそこにあったと答えた。

私はその夜の記録に、火が出る瞬間を見た人はいない、と書いた。

人がいたことと、すべてを見ていたことは違う。

その区別を残したかった。

しかし母の家へ戻り、眠る前に見た炊事場の冷たい灰を思い出すと、その区別だけで自分を落ち着かせることはできなかった。

第四章 名を呼ばれた娘

数日たつと、話し合いに出ない人が増えた。

調査の人は毎日来るわけではなかった。

家財を外へ出した家では雨の心配をし、出さなかった家では夜の心配をしていた。

誰もよく眠れていなかった。

私は診療所へ連絡し、休みを延ばしてもらった。

同僚は、母の具合はどうかと聞いた。

「大きな病気ではないの」

そう言ってから、何を説明すればよいか迷った。家にいることを怖がっている。村で火事が続いている。原因が分からない。

その順番で話すと、最後の言葉ばかりが残る気がした。

「ひとりにできないから」

私はそれだけ伝えた。

噂がある娘に向いたのは、ハナンの家で昼食を食べていたときだった。

娘の名前はナディアといった。

十七歳で、町の親戚のところから戻ってきたばかりだった。

以前から口数が少なく、母親と一緒に市へ行く姿をよく見た。

「最初に燃えたころ、帰ってきたでしょう」

近所の女性が、パンの端をちぎりながら言った。

別の女性が、声を落とした。

「あの子の家は燃えていない」

ハナンが鍋を卓に置いた。

「うちの隣も燃えていない」

「でも、あの子は——」

「何を見たの?」

私は聞いた。

女性は私を見た。

「何かを見たわけではないけど」

「じゃあ、その子の名前を出す理由がない」

言い方が硬くなった。自分でも分かった。

女性は唇を結び、食事のあいだ、それ以上話さなかった。

私は勝ったような気持ちにはなれなかった。

怖がっている人に、証拠がないと告げるだけでは、その怖さはどこにも行かない。

食事のあと、ハナンが言った。

「誰かの家だけ燃えないと、羨ましくなるのよ」

私は濡れた皿を拭いた。

「羨ましいのと、疑うのは違う」

「違う。だから疲れるんだと思う」

その夕方、ナディアに会った。

泉から水を運んでいた。

私に気づくと、器を地面に置き、両手の位置を変えた。

持ちやすくするためではなかった。

何も隠していないと示すような動きだった。

「手伝う」

私は片方を持った。

ナディアは断ろうとしたが、やめた。

家までの短い道で、私たちはほとんど話さなかった。

戸口で水を置くと、ナディアの母親が出てきた。

私を見るなり、お茶を勧めた。

その声が明るすぎた。

家の中は片づいていた。

布類は大きな袋にまとめられ、炊事場から離してあった。火事が起きていない家でも、同じことをしていた。

ナディアは私に茶を注いだ。

「私、町へ戻ったほうがいいですか」

母親が、娘を見た。

私は茶の器を置いた。

「戻りたいの?」

「ここにいると、誰かの家が燃えたとき、また」

その先は言わなかった。

私はすぐに、大丈夫だと言いそうになった。しかし私がいるあいだだけ言われなくても、あとでどうなるかは分からなかった。

「行きたいから行くならいい。人が根拠のないことを言うから、あなたが出ていく必要はない」

ナディアは頷かなかった。

母親は、膝の上で布の端を丸めていた。

私はその家を出てから長老に会い、娘の名を出す話を止めてほしいと言った。長老は聞いてくれた。

「口は、戸のようには閉められない」

「でも、開けていいとは言わないでください」

長老は、しばらく私を見ていた。

「分かった」

その約束がどこまで届くかは分からなかった。

それでも翌日、ナディアがハナンの家で子供たちとパンを焼くのを手伝っていると聞き、私は少し安心した。

村の中に、その子が普通に座れる場所がある。

そのことが、調査の答えより先に必要だった。

第五章 灯りの届く部屋

三月に入って、雨の日が続いた。

外へ出した家財は、布や薄い板で覆われた。

湿った敷物を家に戻す人がいた。

寝場所を変えたために膝を痛めた老人がいて、私は持ってきた薬と、できる範囲の手当てをした。

診療所なら、器具も記録も同僚もいた。

村では、火事の話を聞きながら膝を診て、膝を診ながら食事をしたか確かめた。

火が出るかもしれない家で、毎日の暮らしを続けなければならなかった。

母は少しずつ家の中にいる時間を増やした。

ただし、私が隣の家へ行くときはついてきた。炊事場で鍋を見ていても、私が寝室に入ると声をかけた。

「そこにいる?」

「いる」

そのやり取りが、一日に何度もあった。

私は時々、苛立った。

「すぐそこの部屋でしょう」

そう言ってしまった晩、母は返事をしなかった。

卓の上に、私のために取っておいたパンがあった。母はそれを布で包み直していた。その指の動きが遅く、私は言った。

「ごめん。いるから」

母は布の端を押さえた。

「聞こえればいいの」

その夜から、部屋を移るときは何をするか伝えるようにした。

毛布を取る。水を持ってくる。戸を確かめる。

たったそれだけで、母は少し楽になったようだった。

火事は毎日続いたわけではない。

二日何もないと、村の空気が少し変わった。

子供が外で遊び、男たちが畑へ行った。

母も鶏に餌をやり、オリーブの木の下で土を見ていた。

三日目の夕方、別の家で煙が出た。

被害は小さかった。寝台のそばに置かれた布が焦げただけだった。

それでも、その晩は皆がまた荷物を外へ出した。

私は自分の記録を読み返した。

火事の場所。時刻。料理に使った火。電気を使っていたか。人がいたか。燃えた物をどこに置いていたか。

重なるものはあった。

布が多い。夕方が多い。人のいる家が多い。

だが、村の家には布が多かった。夕方には人が家へ帰った。そういう当たり前のことを取り除くと、手帳に残るものは少なかった。

憲兵の年配の人に、それを話した。

「調べたことが無駄になるわけではありません」

彼は言った。

「何か分かりましたか」

「今、あなたに言えるほど確かなことはありません」

私はその答えを聞いて、肩の力が抜けた。

分からないという言葉を、私以外の人が持っていた。

しかし、その人が帰ったあと、母の家の戸を閉めると、また自分ひとりの言葉になった。

雨がやんだ晩、母は豆の煮込みを作った。

鍋を火から下ろし、ガスの元栓を閉めるところまで、私は見ていた。

パンを温めた鉄板も片づけた。

灰を使うかまどには、その日は火を入れていなかった。

私は灯りを卓の中央に置いた。

母は私の器へ煮込みをよそい、自分の器には少なめに入れた。

「もっと食べて」

「昼に食べたわ」

「昼は私も一緒にいたでしょう」

母は笑った。久しぶりだった。

私たちは弟の話をした。

タンジェで仕事を変えたこと。

電話をすると、いつも忙しいと言うこと。

それでも母の誕生日だけは忘れなかったこと。

母が父の話を始めたとき、私は煙の匂いに気づいた。

初めは、パンの焦げだと思った。

鉄板は冷えていた。

母も顔を上げた。

「何か」

言葉が止まった。

私は炊事場を見た。火はなかった。鍋の下にも、薪を移した場所にも、煙はなかった。

匂いは、寝室から来ていた。

卓の灯りを掴み、立ち上がった。母の膝が卓に当たり、器の中の汁が揺れた。

寝室の戸は半分開いていた。

その向こうには、誰もいないはずだった。私は夕食の前に、毛布を箱へ戻していた。母はそれからずっと、私の正面に座っていた。

灯りを差し入れると、細い煙が見えた。

床からではなかった。壁からでもなかった。

私は木箱の前に膝をつき、蓋を上げた。

箱の中にある毛布の折り目が、暗いところで赤く光っていた。

本文の約76%まで公開

【閲覧注意】ここから先は、記録の核心(真相)に触れる記述を含みます

この先は、記録の結末です。

メール認証後、この続きから全文をお読みいただけます。

登録は無料です。広告メールなどは一切配信しません。