序章 焦げた糖蜜の臭気と、百年蒸気機関の胎動

ジャワ島中部の古都ソロ(スラカルタ)からジョグジャカルタへと続く幹線道路を外れ、田園地帯を網の目のように貫く古い狭軌鉄道の錆びた線路を辿っていくと、熱帯の乾季の夜気の中に、ある圧倒的な「匂い」が漂い始めてくる。

それは、何万トンものサトウキビの搾り殻(バガス)がボイラーの炉で燃焼する乾いた煙の臭気であり、機械油と赤錆、そして真夏の直射日光の下で黒く煮詰まり、腐敗しかけた糖蜜(テテス・トゥブ)が放つ、吐き気を催すほどに甘美で重苦しい「死の芳香」である。

闇の向こう側に立ち現れるのは、空を突き刺す高さ数十メートルの巨大な赤煉瓦の煙突と、十九世紀のオランダ植民地時代に建設された巨大な製糖工場——「パブリック・グラ(Pabrik Gula)」の威容である。

毎年五月から十月にかけての製糖期間、現地で「ムシム・ギリン(Musim Giling=圧搾期)」と呼ばれる季節を迎えると、この巨大な鉄の怪獣は二十四時間体制で息を吹き返す。

昼夜を分かたず鳴り響く蒸気機関の地鳴りのような咆哮、無数の歯車が噛み合う金属の軋み、そして煮沸槽から立ち上る濃厚な白い蒸気の柱。

それは、現代のインドネシアにあって、十九世紀の産業革命と植民地収奪の暴力的な光景がそのまま冷凍保存されたかのような、異様な時空の裂け目である。

インドネシアには、この古い製糖工場で夜勤に従事した若者たちが、生々しい体験談を書き残すオカルト愛好家たちのコミュニティが根付いている。

毎年、圧搾の開始を祝ってサトウキビの束を新郎新婦に見立てて結婚式を挙げる伝統儀礼「チェンベンガン(Cembengan)」の裏側に潜む、決して口外してはならぬ暗黒の噂。

——製糖工場の機械を一年間滞りなく動かすためには、鉄の神へ「血の生贄(トゥンバル)」を捧げねばならない。

——巨大な圧搾ローラー(ギリンガン)の歯の間、煮沸槽(パン・マサク)の底に、かつて何人の無名の労働者たちが呑み込まれていったのか。

その膨大な記録の深奥に、二〇一四年の乾季、工業高校の保守点検インターンとして中部ジャワの製糖工場に滞在したある青年によって書き残された、一本の忘れがたい手記が存在した。

題名は、「製糖工場の夜勤、四号煮沸罐の底から(Shift Malam Pabrik Gula: Suara di Dasar Pan Masak No. 4)」。

それは、百年前にアムステルダムで鋳造された巨大な機械の内部から、彼が自らの耳で聴き続けた、煮えたぎる糖蜜の中で誰かが鉄板を掻きむしる爪の音と、赤黒く濁った搾汁の記憶であった。

第一章 百年前の鋳鉄(ヴェルクスプール)と、深夜の圧搾期(ムシム・ギリン)

二〇一一年七月、スマランの高等職業学校(SMK)の機械工学科で最終学年に在籍していた私——ワヒュは、卒業資格に必要な二ヶ月間の企業実習のため、中部ジャワの寒村にある古い国立製糖工場へと派遣された。

その工場は、一八九〇年代にオランダの農園企業(オンデルネーミング)によって建設されたものであり、外観はコロニアル様式の白塗りのアーチ窓と高い赤煉瓦の壁に囲まれ、まるで中世の要塞のように農村の集落を見下ろしていた。

私の担当は、午後十一時から翌朝午前七時までの夜間保守点検(シフト・マラム)であった。

指導役となったのは、その工場で四十年間ハンマーを握り続けているという古参の主任機関士、ジョコさんであった。

六十歳近いジョコさんは、油と錆で黒ずんだ作業着を纏い、顔の深い皺の奥から、いつも不機嫌そうにクレテック煙草(丁子入り煙草)の煙を燻らせている無口な男であった。

「おい、学生」

初日の夜、工場の中央部——「圧搾ステーション(スタシウン・ギリンガン)」へと足を踏み入れた瞬間、ジョコさんは私の胸元をスパナの柄で小突き、耳をつんざく騒音の中で怒鳴るように言った。

「ここではな、現代の常識は通用せん。この床の下で動いている蒸気機関はな、お前の祖父さんが生まれる前から、オランダの機械屋(ヴェルクスプール)が造ったままの姿で回り続けているんだ。ネジ一つ、歯車一つが、人間の命より重い。

……生き残りたければ、俺の言うことだけを聞け」

工場の内部は、完全な蒸気と熱気の迷宮であった。

吹き抜けの天井は三階建てのビルに匹敵する高さがあり、頭上にはサトウキビの繊維をボイラーへと運ぶ巨大なコンベアが、ガタガタと絶え間なく音を立てて走っている。

床面には、直径五メートルを超える巨大な鋳鉄製のフライホイールが、轟音とともに猛烈な速度で回転し、その回転力を受けて、三基の巨大な溝付きローラーが、送り込まれてくる何トンものサトウキビを万力の力で噛み砕いていた。

パキパキ、メリメリという植物の骨が粉砕される凄まじい破壊音。

ローラーの下の真鍮の受け皿には、絞り出されたばかりの黄緑色の粗搾汁(ニラ)が、太い濁流となって滝のように流れ落ちていた。

全身を包む湿度は九十パーセントを超え、室温は優に四十度を超えていた。

だが、その暴力的な機械の熱気の中に身を置きながら、私はある異様な「掟」をジョコさんから叩き込まれることとなったのである。

「午前二時を過ぎたら、上層の点検通路(キャットウォーク)を一人で歩くな。 サトウキビの搾汁が、理由もなく青から『黒ずんだ赤』に変色したら、絶対に指で触れるな。 そして何より……」

ジョコさんは工場の最深部——薄暗い配管の森の奥に聳え立つ、巨大な円筒形のタンクを指差した。

「あの『四号煮沸罐(パン・マサク・ノモール・アンパット)』のマンホールには、どんなことがあっても近づくんじゃないぞ」

第二章 四号罐の脈動と、蒸気配管のノック音

「四号煮沸罐」は、搾り取られたサトウキビの汁を減圧下で加熱し、水分を蒸発させて粗糖の結晶を析出させるための、高さ十メートルに及ぶ巨大な密閉式真空蒸発罐であった。

だが、そのタンクの表面は、他の稼働中の銀色のタンクとは明らかに異なっていた。

四号罐の外壁だけは、分厚いアスベストの断熱材がボロボロに剥がれ落ち、赤黒い錆と緑青に覆われ、主蒸気パイプのバルブには太い鉄の鎖が厳重に巻き付けられていたのだ。

工場の記録によれば、一九七〇年代の初頭、内部の圧力異常による凄惨な破裂事故を起こして以来、四十年近くにわたり稼働を停止し、予備の空罐として放置されているはずの遺構であった。

だが、実習が始まって三週間が過ぎた八月の新月の夜、その死んだはずのタンクが、あり得ない変異を見せ始めたのである。

午前二時十五分。

夜勤の作業員たちが交代で詰所へ戻り、熱いあまい紅茶を啜っていた時間帯。

私は計器室の圧力監視盤を巡回していて、思わず自らの目を疑った。

停止しているはずの四号罐の蒸気圧計——百年前の真鍮製の圧力ゲージの針が、ゼロの目盛を超えて、レッドゾーンの限界値まで激しく跳ね上がっていたのだ。

カチカチカチ……! 針がガラスの内側を狂ったように叩いている。

配管の減圧弁からは、シューッという高圧蒸気が漏れ出す悲鳴のような音が響き始めていた。

「嘘だろ……蒸気バルブは鎖で閉鎖されているはずなのに……!」

爆発事故の恐怖が私の背筋を貫いた。

もし高圧蒸気が老朽化したタンクを吹き飛ばせば、工場全体が吹き飛ぶ。

私は工具箱から大型のモンキーレンチを引っ張り出し、一人で薄暗い四号罐の設置エリアへと駆け出した。

四号罐の足元に達した瞬間、足の裏を通して伝わってきたのは、機械の振動ではなかった。

それは、トクン……トクン……という、巨大な何者かの心臓が、冷たい鉄の内部で脈打っているかのような、重く、気の遠くなるほど遅い「拍動」であった。

周囲の大気から、突如として工場の機械油の匂いが消滅した。

立ち込めたのは、鼻孔の奥の粘膜を直接焼き焦がすような、濃厚な「焦げた砂糖の匂い」——そして、真夏のアスファルトに放置された牛の生肉が腐敗したような、耐え難い生臭い悪臭。

カン……カン……カン……。

音が、響いた。 外の配管からではない。 それは、厚さ数センチの鋳鉄の壁を隔てた、四号罐の「完全な密閉の内部」から響いていた。

誰かが、罐の内壁を、硬い道具で叩いているのだ。 カン……カン……カン……。

一定の間隔。 それは、金属の工具の音ではなかった。 大人の人間の指骨の関節、あるいは剥き出しになった骨の先端が、鉄板の内側を執拗に打ち据えている音であった。

私は息を殺し、タンクの胴部に設置されていた、直径二十センチほどの丸い「ガラス製監視窓(ピープホール)」へと顔を近づけた。 懐中電灯の光を、黒ずんだ耐圧ガラスの奥へと照射する。

ガラスの向こう側は、暗黒であった。 だが、光を当てた瞬間、その丸い窓の内側の表面に、ドロリとした「黒い液体」が、内側から激しくぶち撒けられたのだ。

窓の内側を滑り落ちる、粘り気のある赤黒い糖蜜。 そして、その液体の向こう側から——。

真っ白に白濁した、二つの人間の「眼球」が、ガラスに額を押し当てるようにして、虚空から浮上してきたのである。

頭部には皮膚が存在しなかった。 高熱の蒸気で煮沸され、顔面の肉が赤黒い繊維となってドロドロに融解した、名もなき男の頭蓋骨。

死者の開かれた口腔から、音のない泡がブクブクと吹きこぼれ、耳膜を直接締め上げるような、古風なジャワ語の呻き声が、鉄の壁を共鳴させて私の脳髄へと突き刺さった。

『……パナス……パナス……(熱い……熱い……) アグス……どこだ……蓋を……開けてくれ……! ムニール(オランダ人旦那)が……後ろにいる……煮殺される……!!』

「うわああああっ!!」 私は悲鳴を上げて尻餅をつき、モンキーレンチを取り落とした。

直後、ドンッ! という凄まじい衝撃がタンクの内側から走り、鎖で固く縛られていたはずの上部マンホールの鉄蓋が、ガタガタと数センチ跳ね上がったのである。

第三章 血染めのサトウキビ汁と、逆流する圧搾溝

「ワヒュッ! 離れろッ!!」

背後から飛んできた太い腕が、私の襟首を力任せに引っ張り上げた。

ジョコさんであった。 古参機関士の顔面は、これまでに見たこともないほど蒼白に脱色しており、その右手には、工業用の生石灰(カプール)が入った麻袋が握りしめられていた。

ジョコさんは四号罐のマンホールの隙間に向かって、真っ白な石灰の粉末を豪快にぶち撒けた。

ジュウウウウッッ!!

まるで強酸に水を注いだかのような、凄絶な沸騰音が響き渡り、タンクの隙間から立ち上る蒸気が一瞬にして黄色く変色した。

タンクの内側から、何十人もの人間が同時に喉を掻きむしるような苦悶の悲鳴が上がり、やがてあの不気味な脈動は、地下の暗渠へと吸い込まれるように静まっていった。

「馬鹿野郎が!」

ジョコさんは私の頬を平手で力任せに張り倒した。

「あれほど近づくなと言ったのが分からんのか! あそこはな、人間が覗く場所じゃないんだ!」

「ジョコさん……中に、誰かが……人が煮込まれている……!」

私の震える言葉を、遠く圧搾ステーションから響いてきた、けたたましい非常警報のサイレンが遮った。

ウウゥゥゥゥン……ウウゥゥゥゥン……!

「何事だ!?」

二人で油まみれの階段を駆け下り、第一圧搾ステーションへと戻った私たちの眼前で、工場の操業は完全に停止していた。

サトウキビを満載したベルトコンベアが急停止し、三基の巨大なローラーの噛み合わせ部分から、黒い煙がモクモクと立ち上っていた。

現場にいた若い作業員たちが、顔を覆って後ずさりしていた。

「主任! 機械が……ローラーが急に詰まりました! 何かが挟まっています!」

ジョコさんが懐中電灯を奪い取り、鋼鉄の歯車の隙間へと光を向けた。

私もまた、その光の先を覗き込み、喉の奥から酸っぱい胃液を吐き戻しそうになった。

ローラーの噛み合わせの底部。

サトウキビの茎を粉砕するはずの巨大な溝付きローラーの歯と歯の間に、挟まっていたもの——。

それは、サトウキビの束ではなかった。

何重にも固く編み込まれた、長年泥水に浸かっていたかのような、古びた「麻袋(ジュート嚢)」の塊であった。

そして、その裂けた麻布の隙間から、押し潰された「人間の骨」の残骸と、黒く濡れそぼった長い「人間の毛髪」の束が、引き千切られた腱とともに、ベッタリとローラーの鋼鉄の溝にへばりついていたのだ。

受け皿へと流れ落ちる粗搾汁(ニラ)の色は、もはや植物のそれ光景ではなかった。

溝からドクドクと溢れ出していたのは、濃厚な鉄の匂いを放つ、ドス黒い「本物の血液」の滝であった。

血液は泡立ちながら真鍮の配管を満たし、床のコンクリートへと溢れ出し、甘い糖蜜の臭気と混ざり合って、息もできないほどの濃密な死臭となって立ち込めていた。

「電源を落とせ!」ジョコさんが叫んだ。「主ブレーカーを落とせッ!」

「落としました!」作業員が絶叫した。「クラッチも切ってあります! 電圧はゼロです!」

その瞬間であった。

ゴゴゴゴゴ……ガギィィィンッ!

電源が遮断され、完全に停止していたはずの百年前の蒸気機関が、何の手も触れられていないのに、突然自らフライホイールを回転させ始めたのである。

ピストンが激しく上下し、圧搾ローラーの巨大な歯車が、ギチギチと音を立てて逆回転を始めた。 まるで、挟み込んだ肉体をさらに奥深くへと引きずり込み、骨の髄まで完全にすり潰そうとするかのように。

そして、工場の高い天井の梁の上から、音が降ってきた。

ヒュオオオオ……パチンッ! パチンッ!

乾いた、鋭利な破裂音。 それは、牛の皮を編んで作られた、植民地時代の農園監督官が振るう「革鞭(ペチュット)」が、人間の皮膚を力任せに引き裂く音そのものであった。

第四章 白服の総督(ムニール)と、首を縫われた影

工場の照明が、一斉に明滅を始めた。 水銀灯の白い光が黄色く濁り、やがてプツン、プツンと音を立てて破裂していく。

残されたのは、非常用のカンテラの頼りないオレンジ色の光と、ボイラーの炉から漏れ出る赤い火焔だけであった。

頭上——三階の高さに架けられた鉄製の点検通路(キャットウォーク)を見上げた作業員の一人が、引き攣った悲鳴を上げて床にへたり込んだ。

立っていたのだ。 蒸気配管が網の目のように走る狭い通路の中央に。

身の丈二メートル近い、異様な長身の男のシルエットであった。 男は、純白の糊の効いた麻のスーツ——十九世紀のオランダ人が好んで着用した「ヤップスロック(開拓者服)」を纏い、頭には鍔の広い白い熱帯帽(トピ・ガブス)を目深に被っていた。 右手には、先ほど空を切り裂いたあの黒い革鞭が握られ、左手には、懐中時計の金鎖が光っていた。

男の顔面には、皮膚が存在しなかった。 熱帯帽の影の下にあるべき顔は、青白い燐光を放つ無機質な「蝋の塊」のようであり、眼窩の奥には漆黒の闇が口を開けていた。

その怪異の足元から、這い出してきた者たちがあった。

十人、二十人。 点検通路の手すりを掴み、あるいは床の鉄格子を四つん這いになって這い回る、無数の影。

彼らは全員が、泥まみれの粗末なバティックの腰布(サロン)だけを身につけた、骨と皮ばかりに痩せ衰えたジャワ人の苦力(クールー)たちであった。

彼らの手足には、赤錆びた太い鉄の鎖が巻き付けられ、その足首は骨膜に食い込むほどの傷口から黄色い膿を垂れ流していた。

そして、何よりも戦慄すべきは、その労働者たちの「顔面」であった。

彼らの唇は、上唇と下唇が、太い針金によって、幾重にも、幾重にも、力任せに「縫い合わされて」いたのである。

声を出すことを許されぬまま、痛みに狂って白目を剥いた顔。 針金の結び目からタール状の黒い血を滴らせながら、死者たちは自らの痩せこけた指先を、床の上にいる私たちへと一斉に向けた。

『……トゥンバル……ギリンガン……(圧搾機の生贄だ……)』

針金の隙間から漏れ出る、何重にも重なり合った空気の漏れるような擦過音。

『……ムニールが……血を求めている…… 今年の砂糖を……白くするために…… お前の肉を……機械に食わせろ……!!』

白服のオランダ人の影が、無言のまま手にした革鞭を振り下ろした。

パァンッ!!

衝撃波が走り、作業員たちが一斉に耳を塞いで転倒した。

通路の上の死者たちの群れが、蜘蛛のような奇怪な敏捷さで手すりを乗り越え、鉄骨を伝って地上へと滑り降りてきたのだ。

冷たい。 室温四十度を超える熱気のただ中にあって、その影たちが近づくにつれ、私の足元のコンクリートから、霜柱が立つかのような絶対零度の冷気が這い上がってきた。

死者たちの冷え切った泥まみれの腕が、私の足首を、作業着の裾を、万力のような力で掴み上げた。

引きずられる。 巨大な歯車が逆回転を続ける、あの血飛沫を撒き散らす圧搾ローラーの開口部へと向かって。

「ジョコさんッ!!」

私は叫び声を上げ、床の鉄パイプにしがみついた。

指の骨がきしむ。 死者たちの爪が、私の安全靴の革を切り裂き、足首の皮膚に深く食い込んできた。

ローラーの鋼鉄の歯が、私の頭上わずか数十センチの位置で、飢えた獣のように口を開けて待ち構えている。

飛び散る血染めの搾汁が、私の顔面を真っ赤に染め上げた。

その時であった。

ドグオオオオオオンッ!!

地鳴りのような爆発音が、工場の空気を震わせた。

ジョコさんが、圧搾機の緊急停止弁——高圧スチームの主配管を手動レバーで力任せに破断させたのだ。

白濁した過熱蒸気が、ホワイトアウトを起こすほどの猛烈な勢いで、機械の周囲一面へと噴流となって吹き荒れた。

同時に、ジョコさんは腰から引き抜いた伝統的な波刃の短剣——「クリス(Keris)」を天にかざし、地を這うような太い声で、古代ジャワの呪文を絶叫した。

『ホン! サン・ヤン・バタラ・カラ! 大地の負債は、百年の血をもってすでに清算されたり! 去れ、飢えたる影よ! 汝の主の眠る墓穴へと還れッ!!』

蒸気の中に、青白い閃光が走った。

クリスの波打つ刃先が、虚空の白服の影を真っ向から切り裂いた瞬間、耳を劈く蒸気機関の悲鳴のような絶叫が夜空へと轟き渡った。

私の足首を締め上げていた冷たい手の圧力が、プツン、と何かの糸が切れたように消失した。

死者たちの影は、噴き出す白い蒸気の渦の中に溶け込むようにして掻き消え、後にはただ、停止した百年前の機械の冷たい沈黙だけが残されたのである。

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