序章 赤土の坂道と竹の柵

二〇二一年の七月、首都ハノイと中国国境のラオカイを結ぶ高速道路は、かつてない静けさに包まれていた。

ふだんなら、コンテナを満載したトレーラーや果物を運ぶトラックが絶え間なく排気ガスを撒き散らしている片側二車線のアスファルトが、あちこちに置かれた検問所のバリケードで寸断され、陽炎だけが白く揺らめいていた。

インターチェンジを降り、赤土の丘陵を縫うように走る舗装の剥がれた県道を進むと、両側にキャッサバ畑とバナナの木がどこまでも広がる。「チュンドゥ(中部山岳地帯)」と呼ばれるその省の農村部では、一人の感染者が確認されただけで、村じゅうの道が青竹の柵と赤白のビニールテープで塞がれた。

その封鎖線のさらに奥、なだらかな丘の上に、古びた二階建ての小中学校が建っていた。

校庭の真ん中には、初夏に真っ赤な花を散らせた大きな鳳凰木が梢を広げ、敷地の外周には幹の太いアフリカマホガニーが深い緑の影を落としている。

しかし、ふだんなら六百人を超える子供たちの声で満たされているはずの校舎は、休校と夏休みが続いたまま、もう三か月近く固く閉ざされていた。

校舎の裏手、細長い中庭を挟んだ向かいに、平屋の建物がある。

遠方の平野部から赴任してきた教員たちのための「公務宿舎」だった。

トタン屋根を乗せた煉瓦造りの長屋に四つの小部屋が並び、その一番端に、プロパンガスの二口コンロと流し台を置いた共同の台所がある。

宿舎に取り残されていたのは、三人の教員だった。

二年生の国語を受け持つ、赴任二年目の二十五歳の女性教員トゥー。故郷の紅河デルタ、ナムディン省へ帰ろうとした矢先に村が封鎖され、そのまま出られなくなった。

もう一人は、四十代半ばの女性教員フオン。ハノイで働く夫と幼い息子とビデオ通話をつなぐことだけが、毎日の支えになっていた。

そして、五十代の理科の教員ホアン。定年間近の無口な男で、暇さえあれば宿舎の軒下で竹の水煙管をふかし、ぼんやりと空を眺めていた。

「また一週間、延びたそうよ」

昼下がり、薄暗い共同台所で、フオンが茹でた空心菜の湯気を手で払いながら呟いた。

スマートフォンの画面には、郡の人民委員会が出した赤い公印入りの通達が映っていた。封鎖解除の予定日は、また八月の末へと書き換えられていた。

「村の外へ出る車は、特別な通行証がないと一台も通してもらえないって。食料の配給も、今週から週に二回に減るらしいわ」

トゥーはまな板の上で、配給の硬い豚バラ肉を薄く切りながら、小さく息を吐いた。

台所には四十度近い湿気がこもり、ニンニクと魚醤の匂いが重たく沈んでいた。天井の四隅からは、ヤモリの鳴き声がチッチッ、と規則正しく響いている。

塀の向こうから、熱風に煽られて、何かが熟れすぎたような、甘酸っぱく饐えた匂いがかすかに流れ込んできていた。

第一章 共同台所の冷えた米

最初に違和感に気づいたのは、トゥーだった。

封鎖が始まって二か月が過ぎた頃から、三人の暮らしは徹底した節約を強いられていた。

村の市場は閉まり、週に二回、村の青年団がバイクの荷台に積んで運んでくる野菜や卵、わずかな冷凍肉を、三人で慎重に分け合って暮らしていた。

米びつの中身も目に見えて減っており、夕食に炊いた白米は、翌朝の粥や昼の弁当に回すため、保温機能のない古い電気釜の底にそのまま残しておくのが常だった。

七月二十日の朝、トゥーが朝食の支度に台所へ入ったときのことだった。

重いアルミの蓋を開けた瞬間、手が止まった。

前の晩、確かに三膳分ほどの白米が残っていたはずだった。

しかし、内釜の底に残っていたのは、茶碗一杯にも満たないわずかな米粒だけだった。

しかも、その減り方が異様だった。

しゃもじを使った跡はなかった。まるで誰かが指をそのまま内釜に差し入れ、底の米を掴んで掻き出したかのように、白い米の表面に、細い指の跡のような溝が何本も走っていた。

「先生、昨日の夜、夜食を食べました?」

朝食の席で、トゥーは向かいに座るホアンに尋ねた。

ホアンは眼鏡を押し上げ、ゆっくりと首を横に振った。

「いや。十時には蚊帳に入って寝ていたよ。胃の調子が悪くて、夕飯のスープすら残したくらいだ」

「フオン先生は?」

フオンも怪訝そうに眉をひそめた。

「私なわけないでしょう。……ネズミじゃないの? 山の中なんだから、大きな野ネズミなら蓋くらい押し開けるわよ」

だが、ネズミの仕業にしては、米粒がまわりに一粒も散らばっていなかった。

釜の縁も、コンロの台も、奇妙なほどきれいだった。ただ、内釜に残った冷や飯だけが、真冬の水にでも浸したかのように、不自然なほど冷たく固まっていた。

二日後、今度は竹籠に入れて吊るしてあったバナナが消えた。

熟れきって皮に黒い斑点が出始めた安いバナナだったが、四本あったはずの実が、翌朝には二本になっていた。

皮はごみ箱にも、流しの隅にも捨てられていなかった。

その代わりに、台所の土間に敷いたすのこの上に、湿った足跡のようなものが、点々と二つ残されていた。

泥の混じった、裸足の跡だった。

幅がひどく狭く、ひどく痩せた人の足だった。

「……誰かが、入ってきているのかしら」

フオンの声が震えていた。

「村の誰かが、塀を乗り越えて? でも、ここには盗むような物なんて何もないわ」

ホアンは煙管を置いて立ち上がり、台所の木の扉の閂を調べた。

閂は内側からしっかり掛かっていた。

小さな明かり取りには錆びた鉄格子が嵌まっていて、子供の体でも通り抜けられる隙間はない。

「今夜から、台所の鍵を二重にしておこう」

ホアンはそれだけ言うと、道具箱から古い真鍮の南京錠を取り出して、外側の掛け金に取り付けた。

だが、その夜の午前二時過ぎ、トゥーは自分の部屋のベッドの中で目を覚ました。

カリ、カリ、カリ。

隣の台所から、かすかな音がしていた。

金属の匙が、空になった鍋の底を、執拗に引っ掻いているような音だった。

硬く、乾いた、力のない音。一度鳴り、数秒途絶え、また思い出したようにカリ、カリと繰り返される。

トゥーは薄いタオルケットを胸まで引き上げ、暗闇の中で息を殺した。

壁の向こうで、何かが喉を鳴らすような、ごくり、という湿った音が、確かに響いた。

第二章 塀の外の五稜の木

学校の敷地の北側を区切るコンクリート塀は、大人の背丈ほどの高さがあった。

表面には雨季の湿気で青黒い苔がこびりつき、上部には侵入よけのガラスの破片がセメントで埋め込まれている。

塀の向こうは、腰の高さまで雑草と茨が生い茂る、放置された荒れ地だった。

その荒れ地の真ん中に、一本の大きなスターフルーツの木が立っていた。

ベトナム語で「ケー(khế)」と呼ばれるその木は、幹の太さが半メートルを超え、太い枝を四方に不規則に伸ばしていた。

枝の先には、切ると断面が星の形になる五稜の果実が、重たげにいくつもぶら下がっている。淡い緑から、透き通るような黄色へと熟れていく途中の実だった。

風が吹くたびに、ぽとり、ぽとりと熟れた実が下草の中へ落ち、湿った熱気の中で発酵して、あの甘酸っぱい匂いを立ち上らせていた。

「バイさん、あの木は誰のものなんですか」

ある日の夕方、トゥーは正門の鉄扉の隙間から、外に立つ老人に声をかけた。

バイさんは、この学校で三十年近く用務員を務め、退職したあとも鍵の管理や草刈りを任されている村の古老だった。

封鎖のあいだ、バイさんは数日おきに、自分の畑で採れたヘチマや青パパイヤを竹籠に入れて、門扉の下から差し入れてくれていた。

バイさんは麦わら帽子の鍔を押し上げ、塀の向こうの木をじっと見上げた。

深い皺の刻まれた褐色の顔に、かすかな翳りが差した。

「……誰のものでもないよ。あそこは昔から、空き地だ」

「でも、立派な実がたくさん生っています。誰も採らないんですか。もったいないわ」

「先生方、あの木の実には手を出しちゃいかん」

バイさんの声は低く、平らだったが、逆らいがたい重みがあった。

「落ちた実も拾っちゃいかん。昔話にあるだろう。『スターフルーツを食べて金で返す』ってな。

鳥が実を食べて金を返すのは、持ち主が欲のない正直者だったからだ。持ち主のいない木の実を勝手に口にすると、別のものが代わりを取りに来る」

バイさんはそれ以上、何も言わなかった。

籠を預けると、古びた自転車を押しながら、夕暮れの赤土の道を足早に去っていった。

その夜、フオンが高熱を出して倒れた。

夕食の席で急に激しい悪寒を訴え、部屋へ戻るなり、布団の中で歯をがちがちと鳴らし始めたのだ。

額に手を当てると、火がついたように熱い。

「風に当たったんだ」

ホアンが眉をひそめ、救急箱から古い硬貨とメンソール入りの軟膏を取り出してきた。

ベトナムで、急な悪寒や体調不良に対して昔から行われている民間療法「カオゾー(cạo gió)」だった。

フオンの背中に軟膏を塗り、硬貨の縁で、首筋から背骨の両脇にかけて強く擦り下ろしていく。

数回擦るだけで、皮膚の表面に、墨を流したような赤黒い筋がくっきりと浮かび上がった。

「ずいぶん悪い風を吸い込んでいるな」

ホアンが低い声で呟いた。

フオンは枕に顔を埋めながら、熱に浮かされたように途切れ途切れに口走っていた。

「……立っていたのよ」

「フオン先生、誰が?」

トゥーが冷たいタオルで額を拭いながら尋ねた。

「……台所の棚の脇に。髪の長い女の人が。夕方、お茶を入れに行ったとき……棚の奥の、生の米の袋に手を入れて……一握りずつ、口に運んでいたの。ぽり、ぽりって、生の米を噛む音がして……私、声が出せなくて……」

ホアンの手が止まった。

背中の赤黒い筋が、ランプの薄暗い光の中で、細い指で引っ掻かれた跡のように見えた。

第三章 それぞれの見間違い

フオンの熱は翌朝には下がったが、彼女は日が暮れてから一人で部屋の外へ出ようとはしなくなった。

宿舎の空気は、目に見えて重く沈んでいった。

三人は互いに、自分の見た「見間違い」について、口に出そうとはしなかった。

口にしてしまえば、それが本当の形を持ってしまう気がしたからだ。

故郷へ帰ることもできず、外との行き来を断たれた山あいの学校で、同僚の誰かがおかしくなり始めていると認めることは、自分の正気を疑うことと同じだった。

だが、小さな異変は、隙間風のように三人の暮らしの端々から染み出していた。

ホアンの部屋の前に干してあった、干し魚の包みが破られていた。

配給の塩漬けの魚を天日に干していたものだったが、新聞紙の包みが引き裂かれ、頭と骨だけがすのこの上にきれいに残されていた。

野良猫の仕業かとも思われたが、まわりには鱗といっしょに、黄色く熟れたスターフルーツの果肉のかけらがいくつも散らばっていた。

ホアンはそれを黙って箒で掃き集め、生ごみの穴に埋めた。その日から、彼の水煙管の煙の量が、目に見えて増えた。

トゥー自身も、奇妙なものを見た。

真夜中、共同の便所へ向かう短い外廊下を歩いているときだった。

塀の向こうから、さやさやと葉の擦れる音が聞こえた。

風は吹いていなかった。

見上げると、あのスターフルーツの木の一本の太い枝が、腕を伸ばすようにして学校側へ塀を越えていた。

その枝の茂みの中に、何かがいた。

最初は、果物を食べる大きなコウモリかと思った。

しかし、雲の切れ間から月の光が漏れた瞬間、トゥーの喉が凍りついた。

枝の上にいたのは、動物ではなかった。

色褪せて泥にまみれた、薄い花柄の木綿のブラウス。

袖口の擦り切れたその服を着た、棒のように細い人の体が、枝に腰掛けて、裸足をぶらぶらと揺らしていた。

その手には、熟れて崩れかけたスターフルーツが握られていて、影はそれを皮ごと、夢中で食べていた。

果汁が顎を伝って滴る音が、静まり返った夜気の中に、ぴちゃ、ぴちゃと響いていた。

トゥーは悲鳴を上げることができなかった。

ただ後ずさりして自分の部屋へ逃げ戻り、内側から鍵を掛けて毛布を被った。

見間違いだ。

長い隔離生活と、単調な食事と、この暑さのせいだ。

自分にそう言い聞かせながら、彼女は朝が来るのを震えながら待った。

翌朝、台所の流しを確かめたトゥーは、息を呑んだ。

排水口の網の中に、スターフルーツの小さな種が三粒、黒ずんだ泥にまみれて転がっていた。

学校の敷地の中には、スターフルーツの木は一本も植えられていなかった。

第四章 旧暦七月十五日の夜

旧暦の七月十五日は、その年、八月二十二日に巡ってきた。

ベトナムではこの日を「赦罪亡人(xá tội vong nhân)」と呼び、祀ってくれる子孫のいない死者たち——「コーホン(cô hồn)」が、この世をさまようと言われている。

平野部の家々なら、門前に台を出し、粥や塩、米、ふかした芋を供え、紙の衣服や紙銭を燃やして、飢えた魂を慰めるのが習わしだった。

だが、封鎖された学校には、線香の一本すらなかった。

夕方から空が急に濁り、重たい雨雲が山肌を覆った。

やがて屋根を叩き壊すような激しいスコールが降り注ぎ、校庭の赤土はたちまち茶色い濁流に変わった。

雷鳴とともに送電線が切れ、午後八時には宿舎の電気がすべて落ちた。

闇が来た。

懐中電灯の細い光だけを頼りに、三人はそれぞれの部屋で息を潜めていた。

スコールは二時間ほどで上がり、雨上がりの濃く重い湿気が立ち込めた。

午前一時。

台所から、音が響いた。

今度は、聞き間違いようのない音だった。

かちゃり、かちゃり。

陶器の皿が重なり合う音。

続いて、プラスチックの米びつの重い蓋が、ばたん、と床に落ちる鈍い音。

トゥーは部屋の扉を細く開けた。

廊下に出ると、隣の部屋からすでにホアンが出てきていた。

手には太い懐中電灯と、中庭に転がっていた鉄パイプを握っている。

フオンの部屋の扉も開き、青ざめた顔のフオンが、震える手でトゥーの腕にすがりついてきた。

「……誰かが、中にいる」

フオンが囁いた。

ホアンは黙って頷き、二人を手で制しながら、ゆっくりと台所の扉へ歩み寄った。

扉の鍵は、夕方にホアンが自分で掛けたはずだった。

しかし、あの真鍮の南京錠は、掛け金から外れて、泥の浮いた土間に転がっていた。

壊された跡はなかった。最初から鍵など掛かっていなかったかのように、金具が静かに外されていた。

扉の隙間から、強い匂いが漏れ出していた。

熟れすぎた果実の甘く饐えた匂いと、雨に濡れた古い泥の匂い。

そして、かすかな、人の汗の匂い。

ホアンが意を決し、鉄パイプを構えたまま、靴の先で扉を強く押し開けた。

懐中電灯の白い光が、暗い台所を一閃した。

光の輪の中に、その姿が浮かび上がった。

流し台と米びつのあいだの狭い隙間に、一人の女がうずくまっていた。

背中は骨が浮き出るほど曲がり、ひどく痩せた手足は、赤土の泥で黒く汚れていた。

着ているのは、あの擦り切れた花柄の木綿のブラウスだった。

髪は雨と汗で固まり、顔の半分を隠していたが、その隙間から覗く肌は、何年も日に当たっていないように青白かった。

女は、米びつに両手を差し入れていた。

炊いた米ですらない。

底に残っていた生の米を、泥だらけの手のひらで掻き集め、夢中で口の中へ運んでいた。

ぽり、ぽり、と、生の米が歯で砕かれる音が、静まり返った台所に響いていた。

喉が詰まりそうになるたびに、細い喉が上下し、苦しげな息が漏れた。

「あっ……」

フオンが耐えかねて短い声を漏らし、口を手で覆った。

その声に、女の動きがぴたりと止まった。

ゆっくりと、女の顔がこちらを向いた。

懐中電灯の光を浴びたその顔には、怒りも、悪意もなかった。

ただ、どうしようもない飢えと、見つかってしまったことへの怯えが張りついていた。

大きく見開かれた目は、光を映して、子供のように揺れていた。

女は抱えていた米をこぼさないように両腕で胸に抱きしめると、雛鳥のようなか細い声を漏らした。

「……取らないで」

それは言葉というより、擦れた息の塊だった。

「取らないで。お腹が、すいているの」

ホアンの手から、鉄パイプが床へ滑り落ち、からん、と音を立てた。

理科の教師として三十年、あらゆることを筋道立てて説明してきた男の膝が、かすかに震えていた。

だが、彼が感じていたのは恐怖ではなかった。

目の前の存在から伝わってくる、あまりにもむき出しで、救いのない「飢え」に、ただ圧倒されていたのだ。

女は身を低くしたまま後ずさりし、驚くほどの速さで、開いていた勝手口の板戸をすり抜けた。

雨上がりの暗い中庭へ、音もなく出ていく。

「待って!」

トゥーは自分でも信じられない声を上げていた。

懐中電灯を握り直し、勝手口から外へ飛び出した。

ぬかるんだ赤土の上に、裸足の足跡が続いていた。

足跡は中庭を横切り、北側の塀の足元へ、まっすぐに伸びていた。

光を向けると、塀の外のスターフルーツの木の太い枝が、地面すれすれまで大きくしなっていた。

その青黒い葉の茂みの中へ、濡れた花柄の裾が一瞬だけ揺れ、そして夜の中へ消えた。

あとには、叩き落とされた青い実がいくつか、泥の中に転がっているだけだった。

第五章 荒れ地の記憶

翌朝、泥の湯気が立ち込める校庭に、バイさんが自転車を押して現れた。

正門を開けて入ってきた老人は、宿舎の前に立ったまま一睡もしていない三人の顔を見るなり、すべてを察したように足を止めた。

「……出たのかね」

バイさんは低い声で言った。

手には、村の雑貨屋で買ってきたらしい赤い包みの線香の束と、小さな紙袋を提げていた。

三人は台所のすのこに腰掛けて、バイさんの話を聞いた。

朝の光が差し込む台所には、ゆうべ女がこぼした生の米粒が、あちこちに散らばっていた。

「二十年近く前だ」

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