いまでもこの話を始めると、手が震える。そう言って、投稿者はしばらく両手を膝のあいだに挟んでいた。声だけの記録なのに、指の震えがこちらにも見えるようだった。

彼が語ろうとしていたのは、二〇一六年四月二十六日から五月五日までの十日間、浙江省西部の山中で起きたことである。

彼は二〇一三年に入隊し、その春で三年目だった。野外駐屯訓練に参加したのは二百人あまり。目的地は県道からさらに車で一時間、最後は未舗装の林道を登った先にあった。

杉と竹と雑木が重なり、昼でも地面まで陽が届かない。雨が止んでも、腐葉土からはいつまでも水の匂いが立っていた。

天幕は上空から見えぬよう、林のもっとも深い場所に二列、互いの入口が向き合う形で設営された。北東に仮設便所、南東に炊事場。炊事場から天幕までは百メートルほど、便所まではその倍あった。問題が起きたのは、敷地の西北隅だった。

中国の古い家相では、西北は乾の方位とされ、必ずしも凶方ではない。しかし浙江の山村には、集落の外れの西北を『送る側』として扱う土地がある。葬列を送り出す道、無縁の死者へ紙銭を渡す辻、あるいは墓地へ通じる旧道が、そこに置かれるのである。

もちろん、隊員たちはそんなことを知らなかった。

地面を均していた一班が、天幕を張る線の真下に二つの土盛りを見つけた。高さは膝ほどで、向きはほぼ同じ。表面には苔と羊歯が生え、片方の頂には割れた青灰色の瓦片が刺さっていた。

墓碑も囲いもなかったが、土地の者なら『土饅頭』――古い墓だと気づいただろう。

宋という若い隊員だけが、それに気づいた。彼の祖母は皖南の出身で、幼い頃、山で同じ形の土盛りを見たことがあったという。『班長、ここは避けませんか。

南へ二、三メートルずらせば済みます』。彼はなるべく迷信めかさぬよう、地盤が緩いからと理由を付けた。

だが、翌週には上官の視察が予定されていた。天幕の列は糸を張ったように揃えねばならない。移動には隣の班との調整も要る。

班長は土盛りを靴先で蹴り、『信じるものが違う。俺たちはこれを信じない』と言った。副班長も笑い、先に円匙を入れた。

最初の土は黒く湿っていた。二度目には細い根が切れ、甘く腐った臭いがした。三度目、円匙の刃が中で硬いものを擦った瞬間、掘り口から煤のようなものがひと筋立ち上った。

煙にしては重く、風に散らず、地面すれすれを這って二つの土盛りのあいだへ消えた。

補給係の一人がそれを見て、急に歯を鳴らし始めた。寒くもないのに肩を抱き、『この仕事はできない』と道具を置いた。七人いた班員のうち二人は炊事場へ資材を取りに行き、残る四人が掘り続けた。

やがて瓦片と、赤い紐の朽ちた切れ端が出たが、骨らしいものは見つからなかった。

夕方までに土盛りは完全に消え、その上へ天幕が張られた。宋は誰にも言わず、炊事場から米をひとつかみ持ち出し、林の西北へ撒いた。墓を動かすとき、まず土地へ米と酒を返す――祖母から聞いた作法の、形だけでも真似たかったのだろう。

だが酒はなく、墓の主へ断りを告げる者もいなかった。

その夜、班長は胸の圧迫で目を覚ました。目を開けているのに、身体が動かない。天幕の天井から、人の顔ほどの白い板がゆっくり降りてきた。

額から顎まで平らで、目も鼻も口もない。その下に、濡れた髪のような黒いものだけが垂れていた。

白い面は鼻先で止まった。口がないにもかかわらず、声は耳ではなく頭蓋の内側に響いた。『元へ戻せ』。

続いて、別の低い声が言った。『戻さぬなら、おまえの家へ行く』。班長がようやく息を吸えたとき、隣で副班長も同時に跳ね起きた。

彼もまったく同じものを見ていた。

翌朝、二人は夢の内容を誰にも話さなかった。ただ、寝不足だと言って目を合わせなかった。ところが二十七日の夜、白い面は再び現れた。

今度は一枚ではない。天幕の布越しに、外からいくつもの平たい顔が押し当てられ、ゆっくり内側へ膨らんできたという。

二十八日の夜には、警告が変わった。班長は故郷の家の台所を見せられた。母親が背を向けて水を汲んでいる。

その足首に、黒い縄のようなものが巻きついていた。目覚めた班長は天幕を飛び出し、午前二時の森を懐中電灯で照らしながら、誰もいない闇へ怒鳴り続けた。

『俺に来い。家族には触るな』。翌朝も彼は入口に立ち、同じ言葉を繰り返した。

周囲はようやく、二人に何かが起きていると知った。投稿者と親しかった副班長は、掘り返した土盛りのこと、三晩続く金縛りのことを打ち明けた。投稿者は半信半疑のまま、上へ報告すべきだと勧めた。

二十九日の正午前、後方連絡所から無線が入った。班長の実家から緊急の電話が転送されてきたのである。母親が台所で倒れ、片脚を複雑骨折した。

床は乾いており、何につまずいたのか本人にも分からなかった。ただ倒れる直前、誰かに足首を強く引かれた感触だけが残っていた。

その知らせを聞いてから、班長はほとんど口を利かなくなった。夕食にも手を付けず、暗くなる前に西北隅へ行き、均された地面へ何度も額を擦りつけた。宋が止めようとすると、『もう場所が分からない』と呟いた。

二つの墓の土は周囲へ混ぜられ、どこへ戻せばよいのか、誰にも分からなくなっていた。

中国南部で墓を移す場合、本来は吉日を選び、地霊と墓主へ告げ、遺骨を拾い直す。無縁墓であっても、香、酒、米、紙銭を供え、元の土地と新しい土地の双方に詫びる。重要なのは豪華な供物ではない。

誰の眠りを妨げ、どこへ移すのかを言葉にすることである。彼らは墓を壊しただけで、移してはいなかった。

四月三十日の早朝、点呼に班長が現れなかった。捜索は十分もかからなかった。彼は西北隅から少し入った杉の枝に、腰紐で吊られていた。

枝は大人の手首ほどの太さで、地上から三メートル以上あった。足元に踏み台はなく、幹にも泥の靴跡はなかった。

投稿者は遺体を下ろす作業に加わった。彼がいまも忘れられないのは、舌の長さよりも目だったという。両眼は内側から押されたように大きく膨らみ、その視線だけが、遺体を囲む者ではなく、切り倒された土盛りのあった地面へ向いていた。

首の索条痕には、腰紐とは別の、細い二重の線が重なっていた。

事故の報告が上がり、訓練はいったん停止された。しかし二百人をすぐに移動させる許可は下りず、現場は布で囲われただけだった。副班長は班長の遺体が運ばれるのを見たあと、投稿者に『昨夜、顔に口ができた』と言った。

その口は横ではなく縦に開き、中から黒い舌が何本も出ていたという。

五月一日の明け方、副班長が消えた。寝具は乱れていない。靴だけがなく、銃も上着も残されていた。

西北隅から林の奥へ百メートルほど入った窪地で、捜索隊は彼の下半身を見つけた。腰から上が失われているのに、周囲の草にも土にも、ほとんど血が付いていなかった。

七十人近くが横一列になり、天幕、便所、炊事場、沢筋まで三日間探した。枝の上も、岩の隙間も、排水溝も調べた。上半身も頭部も見つからない。

探索犬は西北隅までは匂いを追ったが、均された旧墓の上に座り込むと、鼻を前脚のあいだへ埋めて動かなくなった。

その頃、宋は地元の炊事補助員から、あの山には昔、小さな集落があったと聞いた。戦乱と疫病で人が減り、残った家々も麓へ移った。墓碑を持たない土饅頭は、貧しい夫婦を並べて葬ったものか、幼くして死んだ者を家族墓から外して埋めたものだろうという。

誰の墓かは、もう村でも分からなかった。

五月四日の夕方、最寄り駅から四人の男が来た。投稿者が車を運転して迎えに行った。全員が同系統の制服を着ていたが、二人は階級章ではなく文官の標章を付けていた。

四十代に見える男が二人、やや若い男が二人。最年長者だけは両鬢が白かった。

車内で彼らはほとんど話さなかった。急坂で荷物が倒れ、投稿者が直そうとしたとき、革鞄の底に布で縫い付けた八卦図が見えた。別の袋には、朱砂らしい赤い粉、麻紐、五色の紙片が入っていた。

いずれも民間の法師が使う道具に似ていたが、彼らは僧でも道士でもないと言った。

現地へ着くと、四人は遺体の写真も監視記録も求めなかった。最初に尋ねたのは、土盛りの向き、掘った土を捨てた場所、最初に円匙を入れた者、そして黒煙がどちらへ流れたかだった。宋の話を聞いた白髪の男は、『米を撒いたのは間違いではない。

だが道だけを開けて、送り先を告げなかった』と答えた。

彼らの指示で、大型車一台分の紙銭が運び込まれた。一般的な冥銭だけでなく、無地の黄色い紙、白い紙、細長く切った路票もあった。紙銭は死者へ富を贈るためだけのものではない。

路祭では、名の分からない死者や道中の孤魂へ『ここから先へ進んでほしい』と道を買うためにも焚かれる。量が多かったのは、二つの墓だけを相手にしていなかったからだろう。

日が落ちる前、全員が森の外へ下げられた。投稿者は四人の隊員とともに南西側の林道へ残り、縄を張って見張りに立った。指示は明確だった。

誰であれ境界を越えさせるな。中から名前を呼ばれても答えるな。知っている声がしても、振り返るな。

午後十一時を過ぎると、林の奥に黄色い光が灯った。炎の色ではなかった。木々の幹が内側から透けるように明るくなり、次に紫、そして鈍い赤へ変わった。風は外へ吹いているのに、紙の焦げる匂いだけが森の奥へ吸い込まれていった。

やがて叫び声が始まった。最初は女が一人、遠くで泣いているようだった。それが子どもの声、老人の咳、男の怒鳴り声へ分かれ、最後には数十人が同時に喉を絞られる音になった。

見張りの一人は、その中に亡くなった祖父の声を聞いた。縄を越えかけた彼を、投稿者が背後から抱えて止めた。

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