序章 東三環の牡丹雪と、古物商の細い眼

北京の東三環南路、潘家園橋の南西に広がる広大な敷地——夜明け前から無数の懐中電灯の光が蠢く潘家園旧貨市場は、かつて冒険小説の中で墓荒らしたちが財を成した舞台として知られる、東アジア最大の古物と骨董の吹き溜まりである。

十文字に交差する無数の路地には、明清代の古家具、真贋の定かではない青銅器、真紅の瑪瑙、チベットの仏具が所狭しと並べられている。だが、その華やかな観光市場の皮膚を一枚めくれば、そこには墓底から掘り出された血玉や屍胎玉、持ち主の命を次々と奪った呪いの調度品など、白日の下には決して晒せぬ「凶物」が、今なお紙幣の束と引き換えに闇から闇へと密売され続けている。

私がその市場の裏側に巣食う妖異の深淵に触れたのは、龍潭湖公園の近くに部屋を借りて暮らしていた数年前のことであった。

当時、私が足繁く通っていた露店の主——名を「小胖(シャオパン)」といった。丸々と肥えた小柄な体躯に、細く三日月のように笑う小さな眼。一見すれば温厚で騙されやすい田舎者に見えるが、その腹の底には千匹の狐が棲んでおり、死人を生き返らせるほどの口先八丁で、偽物の韓国産玉(韓玉)を新疆の最高級和田玉(ホータンぎょく)に見立てて売り抜く、潘家園の酸いも甘いも噛み分けた抜け目のない男であった。

その日、北京の街には初冬の重い牡丹雪が降りしきっていた。

吹き荒れる朔風に客足は完全に途絶え、市場の露店がことごとく青いビニールシートで覆われた午後、私は小胖を誘い、近くにある老舗の羊肉しゃぶしゃぶ店「東来順」へと逃げ込んだ。

二階の窓際、真鍮の炭火鍋から立ち上る白い湯気と、強い二鍋頭(白酒)の香気に身体を温めながら、窓外を舞う大雪を見下ろしていた時である。杯を弄んでいた小胖が、ふと細い眼を曇らせ、長年誰にも語ることのできなかったという「ある紅木の箪笥」の記憶を語り始めたのだ。

第一章 南洋の邪仏と、名もなき紅木箪笥

小胖が潘家園で自らの店を構えて間もない、十数年前のことであった。

当時の彼はまだ二十代半ば、貧困から這い上がるためなら墓荒らしの盗掘品だろうが、新疆の砂漠から運ばれた干魃死体だろうが、冥婚(死者同士の婚姻)に用いられた棺の破片だろうが、利の乗るものなら何にでも手を出していた。

中でも彼が目をつけたのが、当時密かに北京の富裕層の間で流行し始めていた、タイやミャンマーから密輸される「南洋の邪仏」や呪術具の密売であった。

ある日、界隈の古参の同業者から、小胖の元へ真剣な警告が届いた。

「小胖よ、南洋の仏像にだけは手を出すな。あれを仕切っているのは、南の奥地からやってきた本物の呪術師たちだ。皮膚が浅黒く、蛇のような眼をした連中は、気に入らない奴の家に虫を湧かせ、内臓を腐らせる。

あの蛮子(南方の呪術師)たちを怒らせたら、命がいくつあっても足りんぞ」

だが、若さと無知に任せていた当時の小胖は、二鍋頭の瓶を煽りながらせせら笑った。

「何を怯えてやがる! いくら南洋の長虫仏(大蛇の仏)が凶暴だろうが、俺たちの土地には諸天二十八仏と観音大士が鎮座してんだ。蛮子の神仏が乗り込んできたところで、うちの神棚の線香の煙で一撃にして叩き出してやるさ!」

忠告に訪れた男は、青ざめた顔で首を振り、二度と彼の店に近づくことはなかった。

その傲慢のツケは、わずか数日後の黎明、冬の凍てつく朝に届けられた。

店のシャッターを開けた若い小僧が、悲鳴を上げて小胖を叩き起こした。

店の入り口の敷居の真ん前——まだ人通りのない冷たい舗道の上に、誰が置いたとも知れぬ、高さ五十センチほどの古色蒼然たる「木製の小箪笥」が、まるで捨て子のように鎮座していたのである。

小胖が眉をひそめて駆け寄ると、それは驚くほど上質な紅木(花梨あるいは紫檀)で作られた、重厚な造りの小箪笥であった。四方の角は丸く面取りされ、木目は滑らかに沈み、数百年におよぶ経年変化特有の深みのある飴色の光沢を放っていた。

だが、その豪奢な木肌の美しさとは裏腹に、箪笥全体からは、冬の寒気をさらに数度押し下げるような、ゾッとするほど生々しい「死臭の冷気」が立ち上っていた。

異様だったのは、正面の扉を閉ざしていた「真鍮の南京錠」であった。

錠前には鍵穴が存在しなかったのだ。

最初から二度と解錠されることを想定していないかのように、銅の板を溶接して一体化させた、完全なる密閉の錠。小胖が怪訝に思って箪笥を両手で持ち上げ、前後に激しく揺すってみると、密閉された内部から、

ゴト……ゴト……

と、拳大の硬い何かが、乾いた布の上を転がるような重い反響音が響いてきた。

不気味さを覚えた小胖は、向かいの老舗骨董店の老店主を呼び寄せ、鑑定を仰いだ。

老眼鏡を鼻梁に載せた老店主は、ルーペで箪笥の継ぎ目を凝視し、木肌に鼻を近づけて匂いを嗅ぐなり、息を呑んで後ずさりした。

「……これは、ただの骨董ではないぞ。木材は数百年物の極上の一枚板だが、この鍵穴のない錠前を見ろ。『絶対に開けてはならぬもの』、すなわち陽の光に決して晒してはならぬものを封じ込めるための、特殊な呪法具だ。

……小胖、お前、どこでこんな厄介なものを拾ってきた?」

「見当もつきませんよ。今朝、店の前に転がってたんです。中に何が入ってるんですか?」

老店主はそれ以上何も答えず、ただ痛ましげに小胖を一瞥すると、合掌するような仕草を残して逃げるように自店へと引き返していった。

第二章 圧迫される寝台と、緑玉の胎児

その日の夕暮れ、小胖は気味の悪さを紛らわせようと、熱いモツ煮込み(鹵煮火焼)をかき込み、深酒を煽って寝床へと潜り込んだ。

狭い六畳一間の住居兼倉庫。枕元に置かれたあの紅木の箪笥がどうしても視界に入って鬱陶しかったため、彼は足先でそれを乱暴に蹴飛ばし、スプリングの軋むベッドの下の暗がりへと押し込んだ。

それが、地獄の引き金であった。

深夜、意識の底で、小胖は凄絶な金縛りに襲われた。

全身に数トンの鉛を流し込まれたように指先一本動かすことができない。呼吸が浅くなり、肺胞が張り裂けそうな圧迫感の中、薄く開いた瞼の隙間から、彼は「それ」を目撃した。

彼の寝台の足元に、青黒い顔をした見知らぬ七人の男たちが、ぎっしりと隙間なくあぐらをかいて座っていたのだ。

男たちの着ている服はボロボロに裂け、ある者は首が不自然に折れ曲がり、ある者は胸元に巨大な刺し傷を開き、全員が血走った白目を剥き出しにして、小胖の顔面を指差していた。

耳元で、幾重にも重なり合った男たちの濁った怒号が響き渡る。

『ここは俺たちの家だ! なぜ俺たちの家を奪った! 出て行け! 枕を返せ!』

男たちの冷たい指先が、小胖の額、喉仏、胸骨へと力任せに突き刺さる。激痛と恐怖のあまり、小胖は自らの舌を噛み切りそうになりながら絶叫した。

翌朝、金縛りが解けたとき、彼の頭部には信じがたい異変が生じていた。

右の側頭部が、まるで巨大なスズメバチに刺されたかのように赤黒く腫れ上がり、触れるだけで骨の芯まで激痛が走る巨大な膿腫が盛り上がっていたのだ。全身の関節は激しく軋み、歩くことすらままならない。

恐怖に駆られた小胖は、界隈で風水や冥界の事情に通じている古老の元へ這うようにして相談に赴いた。

古老は小胖の顔の腫れ物を見るなり、眉をひそめて告げた。

「死者と生者が寝床を争う現象だな。家が墓の上に建っているか、寝台の真下に遺骨を置いた時に起きる。寝台の脚が生者の足を踏めば脚が痙攣し、腕を踏めば腕が麻痺する。

……お前、頭の下に死人の頭蓋骨でも敷いて眠ったのではないか?」

小胖は弾かれたように店へ戻り、自らのベッドの下へ潜り込んだ。

まさに彼の頭部——枕の真下に位置する床の上に、あの紅木の箪笥が、冷たい闇を湛えて転がっていたのである。

「化け物め!」

もはや骨董の価値など惜しんでいる場合ではなかった。小胖は真昼の太陽が最も高く昇る正午を見計らい、店の若い衆とともに箪笥を中庭へ引きずり出した。

鉄のバールを振り下ろし、鍵穴のない真鍮の錠前を力任せにへし折る。

バキリッ! 金具が弾け飛び、両開きの扉がギギギと音を立てて開かれた瞬間、立ち込めたのは腐敗臭ではなく、真夏の陽気を一瞬で凍りつかせるような、清冽極まる「氷の冷気」であった。

箪笥の奥底、黄ばんだ古い絹布の上に転がり出てきたのは、一房の「碧玉の瓢箪(翠玉葫芦)」であった。

長さ二十センチほど。最高級のミャンマー産翡翠を削り出して作られたその瓢箪は、触れた瞬間に手のひらの皮膚が張り付くのではないかと思えるほど冷え切っていた。

そして、その半透明な翠の石肌の内部を覗き込んだ小胖は、恐怖のあまり腰を抜かして泥の上にへたり込んだ。

瓢箪の内部には、淡い紫色の霊霧が満ちており、その霧の揺らめきの中に——ピンポン玉ほどの大きさの、完全な形をした「人間の胎児」が、身を縮めて浮かんでいたのである。

手足の指、耳介の窪み、閉ざされた瞼、そして小さな鼻孔に至るまで、寸分の狂いもなく精密に彫り出された、いや、あたかも生きた赤子をそのまま白玉に変成させたかのような、息を呑むほど精緻な玉胎。

太陽の光を浴びた瞬間、その胎児の胸元が、トクン……トクン……と、微かに脈打ったように見えた。

「燃やせ! いますぐ荒野へ持っていって焼き払え!」

小胖の叫びを受け、小僧たちは箪笥と玉瓢箪を郊外の無人の瓦礫捨て場へと運び、ガソリンを二瓶浴びせかけて火を放った。

激しい火柱が上がり、紅木の箪笥はパチパチと音を立てて黒焦げの灰へと崩れ去った。

だが——火が鎮まり、煙が晴れた灰の底で、あの翠玉の瓢箪は、煤一つ付着することなく、氷のような冷気を放ったまま転がっていたのだ。

恐れをなした彼らは、近くにあった樹齢百年の老槐樹(エンジュ)の根元に深い穴を掘り、その瓢箪を埋め捨てて逃げ帰った。

だが、怪異は終わらなかった。

その夜から、小胖が目を閉じるたび、暗闇の中から

ペタ……ペタ……ペタ……

と、小さな素足が板の間を駆け回る湿った足音が響くようになった。

無垢で、しかし狂気を孕んだ甲高い幼児の笑い声。

ある夜には、冷たい小さな手が小胖の足首を掴み、ふくらはぎを這い登りながら、耳元で愛らしく囁きかけてきたのだ。

『パパ……パパ……どうして僕を埋めたの? 寒いよ、パパ……』

一週間で小胖の体重は十キロ以上激減し、眼窩は落ち窪み、廃人同然となった。自らの命の蝋燭が燃え尽きようとしていることを悟った彼は、最後の望みを賭け、北京の骨董界で「神仙」と恐れられていたある大人物の門を叩くこととなったのである。

第三章 素足の足音と、胡同の隠者・白爺

その人物は、界隈で「白爺(バイイエ)」と呼ばれていた。

清朝の高官の末裔であり、西城区の古い胡同(路地)の奥深くに広がる、四合院(伝統的中庭住宅)の屋敷に隠棲する伝説的な大蒐集家であった。湘西の蠱毒、チベットの密教法具、南洋の嬰霊(クマン通)に至るまで、常人が触れれば発狂するような呪物ばかりを蒐集し、それを自在に調伏して玩弄していると噂されていた。

小胖が老槐樹の根元を掘り返し、泥まみれの翠玉瓢箪を抱えてその四合院を訪れたのは、冷たい雨の降る薄暮のことであった。

重厚な朱塗りの門をくぐると、外の北京の喧騒は嘘のように消え去り、苔生した青石の敷石と、手入れされた竹林、そして雨樋から落ちる水音だけが支配する静寂が広がっていた。

広大な書斎に通されると、壁一面の紫檀の書架には無数の古書と古玉が並び、梁からは怪しげな青銅の古鏡や、七星の刻まれた宝剣が無数に吊り下げられていた。

主の白爺は、仕立ての良い藍色の長袍(チャンパオ)を纏った、年齢不詳の老人であった。

白髪は見事な総髪に撫で付けられ、皺一つない肌は陶器のように白く、その双眸には深海の底を見つめるような冷徹な光が宿っていた。

小胖が震える手で懐から瓢箪を取り出し、差し出そうとすると、白爺は細い指先をスッと立ててそれを押し留めた。

「手渡しは無用。そこの卓の上に置きなさい」

小胖が言われた通り、黒檀の机の中央にあの翠玉の瓢箪を置いた、まさにその刹那であった。

第四章 古鏡の共鳴と、七つの凶棺

キィィィィィン……!

前触れもなく、書斎の壁の中央に掲げられていた一面の古代青銅鏡が、風もないのに激しく振動を始めた。

金属が悲鳴を上げるような、耳を劈く高周波の共鳴音。

同時に、卓上の翠玉瓢箪の内部に満ちていたあの淡い紫色の霧が、潮が引くようにスーッと消え去っていった。

露わになった白玉の胎児の姿を見た小胖は、息を呑んで後ずさりした。

胎児は、数日前に見た時よりも明らかに「成長」していたのだ。

丸まっていた手足が伸び、小さな爪が形成され、そして——伏せられていたその顔が、ギチギチと音を立てるようにしてゆっくりと持ち上がり、壁の青銅鏡に向かって、冷たい悪意に満ちた眼差しを真っ向から向けたのである。

鏡の振動はさらに激しさを増し、壁の漆喰がバラバラと剥がれ落ちた。

小胖が恐怖のあまり腰を抜かしかけたその時、白爺が無言のまま進み出た。

白爺は手元にあった朱砂染めの分厚い赤絹を無造作に放り投げ、翠玉瓢箪を頭上から完全に覆い隠した。

その瞬間、ピタリと青銅鏡の共鳴が止み、部屋には再び何事もなかったかのような静寂が戻った。

白爺は静かに椅子へと腰を下ろし、小胖を見据えて静かに口を開いた。

「……お前を殺そうとした何者かの策謀は、まことに稚拙でありながら、残酷極まるものだったな」

「策謀……? やはり、あの箪笥は呪いだったのですか?」

白爺の説明によって明かされた真相は、小胖の背筋を凍らせるに十分であった。

あの紅木の小箪笥。あれは単なる木箱などでは断じてなかった。

刃物で惨殺された者、首を括った者、水に溺れて腐乱した者——非業の死を遂げた「七人の横死者」の棺桶から、怨念の染み付いた底板だけを切り出し、呪術の儀軌に従って組み上げた、至凶の呪殺具「七凶棺」であったのだ。

「あの箪笥を室内に置いた者は、七人の横死者の怨嗟を一身に浴び、脳を焼かれ、七日以内に同じように非業の死を遂げる。お前がベッドの下に置いたことで、七人の悪霊が一斉にお前の頭を踏みつけにやって来たのだよ」

「では……あの瓢箪の中の赤ん坊は、その悪霊の親玉なのですか!?」

小胖が叫ぶと、白爺は冷ややかに首を横に振った。

「逆だ。全くの逆だよ。……その赤子こそが、この世のいかなる人間も手にしてはならぬ、至高の霊物なのだ。

あの七つの棺から作られた箪笥はな、この赤子が放つ強大すぎる陽気と造化の霊威を、外に漏らさぬよう無理やりに抑え込むための『蓋』として使われていたに過ぎん」

何者かが、中国全土の霊山を巡ってこの至宝を盗み出し、その強烈な生気を隠蔽するために七凶棺に封じ込めていた。しかし、盗み出した黒幕自身もその怨念と霊威を御しきれず、自らの破滅を恐れた末に、小胖の軽率な言動に目をつけ、彼を呪い殺すための鉄砲玉として店の前に投げ捨てたのだ。

「奴はお前に厄を擦り付けたつもりだったのだろうが……皮肉なものだな。結果として奴は、天下無双の造化の器を、お前に無償で譲り渡してしまったのだから」

第五章 崑崙の仙胎と、奪われた造化

白爺の細い指先が、赤絹の上の瓢箪を愛おしそうになぞった。

「小胖よ。お前は、風水と神仙の奥義にいう『崑崙胎(こんろんたい)』の名を聞いたことがあるか?」

東晋の道士・郭璞が著した風水地理の至典『葬経』。その深奥において、中国大陸のあらゆる山脈の母体とされる西方の霊峰・崑崙山脈から発する巨大な龍脈には、極稀に、大地そのものの生気が気の遠くなるような年月をかけて凝縮する「結穴」が存在すると記されている。

千年に一度、万年に一度。

天下の気の極点において、大地の母胎が真白な玉石の中に自らの生命の雛形を結実させる。

それこそが、石の中に宿る神仙の胎児——「崑崙胎」である。

明代の奇書『西遊記』において、花果山の頂にあった霊石が天真の気を吸って石猿を産み落としたように、大地が自らの意志をもって生み出す生きた石の神。

「古来、不老不死を渇望したあまたの帝王たちが、この崑崙胎を血眼になって探し求めた。未だ完全に孵化していない崑崙胎を見つけ出し、自らの肉体をその仙胎の穴へと葬るか、あるいは秘術をもってその神識を我が身に宿すことができたなら……人は輪廻の鎖を断ち切り、天を欺いて生きたまま真仙の位へと昇ることができるのだからな。……有史以来、これを得て真の昇天を遂げたのは、軒轅黄帝ただ一人と伝えられている」

白爺の瞳の奥に、怪しい燐光が燃え上がった。

「小胖。お前はただの俗物の骨董商だ。徳も薄く、福分も足りん。その小さな器でこの崑崙胎を抱え続ければ、赤子はお前の精血を吸い尽くし、今夜のうちにお前は乾涸らびた死体となって転がることになるぞ」

白爺は立ち上がり、書斎の奥の金庫を指差した。

「この屋敷にある金銀財宝、骨董、あるいは北京の一等地の四合院の権利書、何でも好きなものを望むだけ持っていくがいい。……その石の赤子を、私に譲り渡しなさい」

小胖は商人の本能で、自らの命が計り知れない秤の上に載せられていることを悟った。

彼は歯の根をガタガタと鳴らしながら、当時の北京の不動産相場からすれば天文学的な、一生涯遊んで暮らせるほどの法外な金額を口にした。

白爺は眉一つ動かさず、ただ静かに頷き、その場で小切手を切ってみせたという。

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